6月22日からの2日間、東京・日本武道館で開催される「全日本学生柔道優勝大会」(全日本学生優勝大会)は大学団体日本一を決める大会だ。12年ぶり7度目の優勝を目指す国士舘大学は、5月の東京学生柔道優勝大会(東京学生優勝大会)を6年ぶりに制した。2004年アテネオリンピック100kg超級金メダリストで、同大の指揮を執る鈴木桂治監督に大会に向けての想いを訊いた。

 

――監督に就任されてから7回目の全日本学生優勝大会が近付いてきています。

鈴木桂治: まずは優勝という目標を掲げています。選手ひとりひとりのモチベーションは高いと思います。

 

――5月の東京学生優勝大会では6年ぶりの優勝を収めました。国士舘復活への手応えは?

鈴木: どんな大会でも勝つことはうれしい。今年のメンバーは大学で団体戦優勝を味わったことがなかったので、東京学生優勝大会を制したことは非常にいい経験になったと思います。しかし、他の大学のオーダーを見た時にベストメンバーではないチームもありました。全日本学生優勝大会に向けては、国士舘も戦い方を改善していく必要があると感じます。

 

――全日本学生優勝大会のキーポイントは?

鈴木: 団体戦はチームワークです。プロ野球で言えば、4番バッターが9人揃っても勝てるわけではありません。いいピッチャーが9人いたとしても同じです。それぞれの役割があります。登録メンバーは12人、試合に出られるのは7人です。7人が自分の役割を理解する必要があります。全員が100kg以上あるわけではありませんし、81kg級、90kg級の選手も戦力です。それぞれ自分がどういう戦いをすればチームのためになるか。それを理解することを選手に求めています。

 

――監督自身、この大会にこだわりはありますか?

鈴木: はい。どの大学もそうだと思います。大学の威信をかけて戦う大会です。団体戦は全日本学生柔道体重別優勝大会と全日本学生優勝大会の2つがあります。体重別団体で優勝したとしても「無差別の方で優勝していないよね」と言われることがあります。それだけ重きが置かれる大会です。国士舘は両方での優勝を目指していますが、どちらかを選べと問われれば全日本学生優勝大会の方で勝ちたい。監督としても選手としても、この大会で優勝すれば箔が付きますからね。

 

――監督にかかるプレッシャーもひと際大きいと?

鈴木: ええ。だからこの大会はいつも胃が痛い。食事も喉を通りませんし、緊張しっぱなしの2日間です。試合はどう転ぶかわからない。いい方に転べばいいのですが、最悪の状況も考えなければいけません。監督としての力量が問われるところです。

 

 チームワークを合言葉に

 

――現在3連覇中の東海大学は、ここ10年で9度の優勝を果たしています。

鈴木: 僕が柔道を始めた頃から東海という名前は超一流のブランドでした。そこに立ち向かっていく面白さがあります。僕自身も現役時代は東海の井上康生さんを倒したくてやってきました。僕の恩師である斉藤仁先生は“打倒・山下泰裕”に執念を燃やしていました。東海は日本代表に多くの選手を輩出しています。だからこそ“東海に勝ちたい”と思う大学は多いですし、東海を破り優勝することに価値があるんだと思います。

 

――2012年7月から国士舘大の監督に就任しました。学生を指導する上で最も気を付けている点は?

鈴木: 僕が監督になった頃、「自主性」という言葉がすごく流行りました。僕はこの言葉がすごく嫌だった。自らの型を作り上げてきた過程があるからこそ自主的にできる。何をしていいか分からない子に「自主的にやってみろ」というのは無理な話です。いつだったかシンクロナイズドスイミング(アースティックスイミング)の井村雅代さんが「自主性ほど怖いものはない」とおっしゃっていました。一流の指導者の言葉を聞き、「僕の考えでいいんだ」と安心しました。

 

――“シンクロの母”と呼ばれる井村さんはスパルタ指導で知られていますが、国士舘の稽古も厳しい?

鈴木: そう思います。「国士舘って厳しいんでしょ?」とよく聞かれますが、「厳しいですよ」と答えます。国士舘イコール厳しい。それで全然いいんです。隣の芝生は青く見えるぐらいの方がちょうどいいのではないでしょうか。

 

――鈴木監督は3年の飯田健太郎選手、国士舘高校3年で斉藤仁さんの次男・立選手とは「共通言語」があるとおっしゃっていました。

鈴木: そうですね。彼らの場合は言ってできるということです。理解できる能力は絶対大事だと思います。だから選手が分からなければ教える。分かっているのであれば促す。学生とのやり取りはそれぞれ違います。選手によって言葉を使い分けています。それぞれが理解できる言葉で話をしたいと思っています。

 

――道場を見渡すと鈴木監督の言葉がたくさん貼ってあります。

鈴木: あれは、ほとんど人のパクリなんです。本を読み、“これは大事なことだ”と思ったことがあれば、メモして学生に伝えるようにしています。

 

――鈴木監督も現役時代は全日本学生優勝大会を経験されていますが、試合に出る7人に選ばれることは、部員全員の気持ちを背負って立つということでしょうか?

鈴木: それが「ない」と言うと寂しいかもしれませんが、選手たちがそこまで抱え込む必要はないと思います。だから“全員の思いを背負っているんだぞ”という話は決してしません。一方でサポートする他の学生たちには“オレたちの代表で出ているんだ”との思いを持ってほしい。“オレたちがついているぞ”と周りが選手たちをどれだけサポートできるか。それが勝ち上がっていく上で必要なエネルギーになるのだと考えています。

 

――改めて全日本学生優勝大会に向けての一言を。

鈴木: 「チームワーク」を合言葉にチーム一丸となって戦っていきます。選手ひとりひとりの努力で必ず12年ぶりの日本一を奪還します。選手、サポートしている学生104名全員で喜びを分かち合いたいものです。

 

 綺麗な一本よりも勝ち点

 

 鈴木監督が「ポイントゲッター。3年生だが、チームを引っ張ってくれている」と期待を寄せるのが、100kg級の飯田である。昨年のアジア競技大会同級金メダリスト。東京オリンピック出場を目指す重量級のひとりだ。5月の東京学生優勝大会では決勝で見事な一本勝ちを収め、大会の優秀選手として表彰されるなど6年ぶりの優勝に貢献した。

 

――5月の東京学生優勝大会を制し、全日本学生優勝大会に向けて弾みが付きました。

飯田健太郎: 東京学生優勝大会で優勝したことにより、全日本学生優勝大会に向けた戦い方が固まってきたような気がします。自分たちがどれだけポイントを取れるのか。ひとりひとりの役割分担が明確になりました。あとはチームが一致団結し、大会に臨めるかどうか。部員みんなすごくやる気になっています。

 

――東京学生優勝大会決勝は大将を任されました。その一戦で見事な一本勝ちを収めた得意技の内股にこだわりはありますか?

飯田: 団体戦に関しては特にこだわっていません。綺麗な一本よりも勝ち点を取ることにこだわっています。指導3の反則勝ち、寝技、合わせ技一本でもいいんです。どんなかたちでも自分が1点を取ることにこだわります。

 

――入学時から指導を受けている鈴木監督はオリンピック金メダリストです。飯田選手から見ると、どんな存在ですか?

飯田: すべてをお手本にさせてもらっています。厳しいことを言われたこともありますし、褒めていただいたこともあります。学ぶことはとても多い。

 

――大会は7人制の無差別級団体戦です。飯田選手のモチベーションは?

飯田: 全日本学生優勝大会は団体戦の学生日本一を決める大会です。団体戦独特の雰囲気があり、この大会でしか味わえない緊張感もあります。自分自身、団体戦は好きです。国士舘に入ってからまだ日本一を経験していないので、この大会にかける思いは強いですね。自分の役割をきっちり果たし、最後は皆で笑い、監督を胴上げできるように頑張ります。

 

――最後に全日本優勝大会とは?

飯田: 国士舘が復活する大会です! チーム全員がそれぞれの役割を果たせば、優勝できると信じています。

 

 BS11では「全日本学生柔道優勝大会」の模様を6月23日(日)19時から放送します。またまた大会にさきがけ22日(土)には東京オリンピック代表候補たちの学生時代のターニングポイントや名勝負を特集した「ニッポン柔道 新時代 ~学生柔道にみる強さの源泉~」を20時、4連覇に挑む“絶対王者”東海大学男子柔道部に密着した「ザ・チーム 勝ち負けの向こう側」21時から放送します。いずれもお見逃しなく!


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