サッカーJ1・サガン鳥栖の顔ともいえる元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスが8月限りで現役生活にピリオドを打つ。

 

 

「自分のベストのレベルに到達できていないのではないか? という疑問があった。ベストのレベルに到達できないのなら、サッカー人生を終えたいと思い、引退を決意した」

 

 さる6月23日、都内で開かれた引退会見の席でトーレスは、こう語った。

 

 ベストコンディションは望めなくても、ベターな状態なら、まだ維持できるのではないか……。引退を惜しむ関係者の中には、そんな声もあったが、トーレスに「妥協」の二文字はなかったようだ。

 

 34歳で迎えた今シーズンは右太ももの故障の悪化などもあり、リーグ戦11試合で無得点。本人も歯がゆい思いを味わっていたに違いない。

 

 昨年7月、鳥栖入団の際には驚きの声が上がった。彼のキャリアがあまりにも輝きにみちたものだったからだ。

 

 アトレティコ・マドリードの下部組織で育ち、16歳でトップ昇格。19歳でキャプテンを務めた。その後、イングランドのリバプール、チェルシー、イタリアのACミランなどビッグクラブを渡り歩いた。チェルシー時代の11-12年シーズンにはUEFAチャンピオンズリーグ優勝に貢献している。

 

 スペイン代表としては、欧州選手権連覇(08年、12年)に加え、10年南アフリカW杯で“無敵艦隊”を初の頂点に導いている。

 

 キャリアのハイライトはオーストリアで行われた08年欧州選手権決勝でのドイツ戦か。

 

 前半33分、トーレスは持ち前のスピードでマーカーを振り切り、GKをあざ笑うかのようなループシュートを決めた。これが決勝点となり、トーレスはこの試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。なおスペインはグループリーグ初戦から6連勝での戴冠となった。

 

 鳥栖では昨シーズン第33節の横浜F・マリノス戦での活躍が印象に残る。ホームでのゲーム、負ければJ1残留が遠のく正念場の一戦で、貴重な決勝点を叩き出してみせたのだ。

 

 後半33分、ゴール前でボールを受けたトーレスはDFをひらりとかわし、右足を振り抜いた。シュートがサイドネットを揺らした瞬間、ベストアメニティスタジアムのボルテージは最高潮に達した。

 

 さて、引退後のトーレスには次なるミッションが待っている。アドバイザーとしてチームに残り、「組織改革をやりたい」と抱負を口にしたのだ。

 

「特にユースや若手育成に目を向ける。彼らを成長させることで、クラブを大きくしたいんだ」

 

 鹿島アントラーズにおけるジーコのような存在を念頭においているのかもしれない。

 

 現役最後の公式戦は8月23日、ホームでのヴィッセル神戸戦だ。神戸にはスペイン代表の“戦友”MFアンドレス・イニエスタ、FWダビド・ビジャがいる。両チームのサポーターでなくても見逃せないメモリアルマッチとなりそうだ。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2019年7月14日号に掲載されたものです>

 


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