「先行者利益」という言葉がある一方で、「後発者優位」という言葉もある。後発者が先行者をキャッチアップする段階でフリーライドできるのであれば、時間もコストも節約できる。言葉は悪いが“いいとこ取り”すればいいのだ。

 

 旧知の日本ラグビー協会清宮克幸副会長から28日に東京・日経ホールで行なわれたシンポジウム「日本ラグビーの未来」のモデレーターを依頼されたのは1カ月前のことだ。それ以前から新プロリーグの構想については聞いており、イノベーションチームのメンバーたちと議論を重ねてきた。

 

 議論を通じてラグビーには豊富な「資源」があることが理解できた。物的資源、人的資源、文化的資源……。しかし、これらが「資産」になっていなかった。すなわち経済的価値、社会的価値、生活的価値を生み出すまでには至っていなかったのである。

 

「資源」を「資産」に――。ラグビーの価値そのものが向上しなければ、トップリーグを一新する「ピカピカのプロ化」も地球儀を俯瞰しての国際化も絵に描いたモチに終わってしまう。清宮が抱く危機感は、私が想像していた以上だった。「スピード感を持ってやりたい」。号令は下ったのである。

 

 シンポジウムにも登壇した協会理事の境田正樹は、川淵三郎の下でバスケ界を改革し、Bリーグを軌道に乗せた功労者のひとりである。周知のようにBリーグはJリーグのガバナンスやビジネスモデルを手本にしている。ラグビーの新リーグがこれらをベースにするのであれば手間は省ける。しくじったところがあれば、それを改めればいい。すなわち「後発者優位」だ。

 

 いや、ラグビーにはラグビーの進むべき道と使命がある――。そのとおりだ。私が期待しているのは課題解決型の「ソーシャル・イノベーション」である。代表メンバーを見ればわかるようにラグビーは「国籍主義」をとらない。体の大小問わずプレーすることができる。またプレーのベースには常に相手を敬う気持ちがある。互いの違いを認め合う「共生社会」において、いつかラグビーは日本人の“身だしなみ”となる日が来るのではないか。

 

 また社会貢献、地域貢献に向けた真摯なまなざしと具体的な取り組みは、企業の投資意欲をも高める。それらも含めての「ラグビー力」。最大の受益者は国民だ。早速川淵からメールが届いた。「ラグビーのプロ化は何としてでも成功させたい」

 

<この原稿は19年7月31日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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