出版の世界も相当にいい加減だが、それでも本を出す際には、著作権者と出版業者の間で契約書を取りかわす。そこには初版部数、印税率などが書き込まれている。

 

 吉本興業所属芸人の“闇営業”騒動は当該タレント2人が緊急記者会見を開いたことで、問題の核心部分がほぼ明らかになり、世間の関心は吉本興業本体の“ブラック企業体質”に移りつつある。

 

 何よりも驚いたのは前近代的とも言える商習慣だ。会社と個人事業主である所属芸人との間に契約書すら存在しないという事実はコンプライアンスの不在を意味する。それを「ファミリー」(岡本昭彦社長)と都合よく解釈して言いくるめるのには無理がある。イタリアマフィアじゃないのだ。ギャラの取り分についてもはっきりしない。

 

 プロ野球協約に「参稼報酬の最低保障」が追加されたのは1952年のことだ。年俸18万円。大卒正社員の初任給(年収)が約12万円の時代だから悪くはない。導入の理由の一つに、賭博組織との関係を断ち切る目的があったと言われている。

 

 それでもプロ野球は狙われた。69年10月、西鉄の永易将之に端を発する“黒い霧事件”が発生し、永久追放を含め計19人が処分を受けた。処分された選手の中には参稼報酬に不満を持つ者が多く、暴力団にそこをつけ込まれた。

 

 お隣の韓国では国技とも言えるサッカーが汚染された。11年に「Kリーグ」で八百長が発覚し、現役選手5人が逮捕され、自殺者まで出た。<年俸は多くても5000万ウォン(約370万円)ほどで、いつ解雇されるかわからず、選手たちは皆将来に不安を感じている>(朝鮮日報日本語版2011年5月26日)。八百長を仕切っていたのは反社会的組織。違法賭博をサイト上で運営し、年俸の安い選手を引きずり込んでいた。

 

 芸能であれスポーツであれ、不祥事が発覚するたびに運営団体や事業者は「教育」や「研修」によるコンプライアンスの徹底を再発防止策として掲げるが、空々しいことこの上ない。それよりも構成員の「生活の安定」が先だろう。「家族がいて食えないようにしたのは誰なんだと。最低保障ぐらいしろよ」。テレビでのビートたけしの発言は正論である。「衣食足りて礼節を知る」というではないか。

 

<この原稿は19年7月24日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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