企業でも役所でもそうだが、前任者が偉大だと後継者はやりにくいものである。

 

 

 ラグビーW杯日本大会開幕まで、残り2カ月を切った。日本代表は大会での目標を「ベスト8以上」に定めている。

 

 前ヘッドコーチ(HC)のエディー・ジョーンズ(現イングランド代表HC)は2015年イングランド大会で輝かしい実績を残した。W杯で2度の優勝を誇る南アフリカを撃破するなど3勝をあげたのだ。

 

 当初、選手の中には「エディーは理不尽」とその手腕については眉をひそめる者もいたが、スポーツの世界は勝てば官軍である。今では「エディーなくして日本代表の躍進はなかった」(協会元幹部)との評価で一致している。

 

 そのエディーからバトンを引き継ぎ、アジア初のW杯でホストカントリーの指揮を執るのがニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフである。

 

 1995年のW杯南アフリカ大会では、フランカーとしてオールブラックスの準優勝に貢献している。その後、日本のサニックスに移籍し、99年のウェールズ大会では、日本代表の一員としてプレーした。

 

 身長196センチ、体重105キロの偉丈夫。パワフルなプレーが持ち味だった。

 

 どんな人柄なのか。興味深い話を披露してくれたのは、ともに99年大会を戦った伊藤剛臣である。

 

「98年のオーストラリア合宿で僕たちは同部屋になりました。部屋は小さく、シングルベッドが2つくっつけてあるだけ。寝る前、いきなりジェイミーは素っ裸になった。“Why?”と聞くと“これがニュージーランドスタイルだよ”って(笑)。なかなか寝付けなかったですよ」

 

 そして、続ける。

「でも性格は最高。明るく紳士的で、何でも話してくれます。日本食や日本文化が大好きなところも選手とコミュニケーションをとる上では大変、役に立っていると思います」

 

 元日本代表ウイングの大畑大介には忘れられない思い出がある。

「僕にとって99年大会は、あまり出来がよくありませんでした。ある試合でボールを持った瞬間にキックした。その瞬間、ジェイミーに目茶苦茶怒られました。“オレはオマエを信頼してボールを渡しているのに、なんで消極的なプレーをするんだ。もう、オマエには二度とボールを渡さない”って。それで、“もう1回チャンスをくれ”と頼むと、“わかった。最高のボールを供給するから結果を出せ”と。それがウェールズ戦の前半11分のトライにつながったんです」

 

 大畑によると、選手に対してエディーが「上から目線」なら、ジェイミーは「斜め上から目線」。兄貴分的な指揮官と言えそうだ。

 

 もっとも不安がないわけではない。03年大会オーストリア代表HC、07年大会南アフリカ代表チームアドバイザーと2度のW杯を経験して日本代表の指揮を執ったエディーに対し、ジェイミーは今回がW杯初采配となる。

 

「最高の準備をする」と本人。備えあれば憂いなし、である。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2019年8月11日号に掲載されたものです>

 


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