二宮清純: 廣瀬俊朗さんは2012年、日本代表のキャプテンに任命されました。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)の下で約2年間、その重責を担いました。前編で柱谷哲二さんがお話ししていた「監督批判はやめてくれ」というようなメッセージを代表のチームメイトに伝えたことはありますか?

廣瀬俊朗: 選手たちのエディーさんに対する戦術面での信頼は非常に高かった。そこに僕がアプローチしたことはありません。エディーさんは勝つことにすごくこだわっていましたが、僕は目的にこだわっていました。その目的とはラグビー日本代表が皆の憧れの存在になることです。勝利を追い求めつつ、代表の将来のことについても深く考えていました。

 

二宮: ところがエディージャパン3年目の14年にはキャプテンを外されてしまいます。当時は相当思い悩んだと伺いました。

廣瀬: ええ。当時、日本代表のメンタルトレーナーを務めていた荒木香織さんに相談しました。

 

二宮: 荒木さんには「だったら辞めてもいいんじゃない?」と言われたそうですね。

廣瀬: はい。「日本代表離れたら?」と言われたことで、“離れてもいいんや”と気が楽になったんです。そのうえで“自分はまだ日本代表にいたい”という気持ちに切り替えることができました。

 

<ゲスト>廣瀬俊朗(ひろせ・としあき) 1981年10月17日、大阪府出身。現役時代は東芝ブレイブルーパスでスタンドオフ、ウイングとして活躍。トップリーグ連覇に貢献した。日本代表には07年初選出。12年春に日本代表復帰とともに主将に就任した。14年に主将交代となったが、15年W杯イングランド大会の最終スコッド入り。過去最多の3勝をあげたチームの躍進に貢献した。16年に現役引退。現在はラグビーの普及活動に精力的に取り組んでいる。日本代表通算キャップ数28。

二宮: キャプテンには口外できないこともあるでしょう。他の選手に弱みを見せられないこともあります。そこで荒木さんに相談したと。

廣瀬: そうですね。外側からチームを見てくれている人の意見は非常にありがたかったです。

 

二宮: 柱谷さんはキャプテンを任された時、誰かに相談することはありましたか?

柱谷哲二: なかったですね。

 

二宮: 兄の幸一さんには?

柱谷: 兄とは、あまりしゃべらなかったので(笑)。だから愚痴は家に持って帰り、女房にこぼしていたと思います。僕は“失敗は成功の素だ”と、嫌なことを前向きに考える性格でした。

 

二宮: 柱谷さんは闘争心剥き出しのプレーと、そのリーダーシップから「闘将」と呼ばれていました。そのことについてはどう思っていましたか?

柱谷: そういうあだ名がついたことは正直うれしかった。僕自身、チームを「戦う集団にするんだ」と言い続けてきました。それを自分自身がピッチで表現できていることがわかった。“自分のやっていることは周りに伝わっている。このままでいいんだ”と思えたのです。

 

二宮: 柱谷さんが代表の中心選手としてプレーしていた時期、メディアはサッカーの日本代表を大きく扱うようになりました。ちょうど日本代表ブランドが向上した時期でもあります。

柱谷: そこは個人の責任という感じでした。サッカー協会から、とやかく言われることはありませんでした。一方でクラブからはメディア対応の教育は受けていました。何を言うべきか、言ってはいけないかの分別は、選手それぞれが分かっていたと思います。

 

二宮: 4年前のW杯イングランド大会で3勝をあげ、ラグビー日本代表は一躍脚光を浴びました。チームのメディア対応については、廣瀬さんはどんなアクションを?

廣瀬: 前向きな発言をすれば、ファンの方も喜んでいただける。だから選手には「自分が広報になるつもりでやってほしい」と言っていました。大きく外側に発信してほしいというよりは、まずは家族など周りの人間やチームメイトに対してですね。「日本代表がすごくいいチームになっているから、一緒に戦おう、応援しよう」と。ラグビー界における日本代表は決して地位は高くない。まずはその文化を変えたかったんです。僕は「皆の口から前向きな発言をしてほしい」と伝えました。

 

 キャプテンに必要なもの

 

<ゲスト>柱谷哲二(はしらたに・てつじ) 1964年7月15日、京都府出身。現役時代は日産自動車、ヴェルディ川崎(現・東京V)でセンターバック、ボランチとして活躍し、チームの数々のタイトル獲得に貢献した。88年に日本代表選出。“ドーハの悲劇”と呼ばれたアメリカW杯アジア予選ではキャプテンを務めた。98年限りで現役を引退。解説者を経て、古巣東京Vを含む数々のJクラブで指揮を執った。現在は解説業のほか、花巻東高サッカー部のテクニカルアドバイザーを務めている。日本代表通算72試合出場、6得点。

二宮: 柱谷さんがキャプテンを務めたサッカー日本代表は1994年アメリカW杯アジア予選で惜しくも本大会出場を逃しました。いわゆる“ドーハの悲劇”です。ラモス瑠偉さんをはじめ、個性派揃いのチームをまとめるのは大変だったのでは?

柱谷: いや、全然大丈夫でした。1992年にアジアカップを優勝した時に、自分のキャプテンとしての仕事はある程度終わったと感じましたね。チームは何でも言い合える雰囲気ができあがっており、新しい選手が加わっても馴染みやすいような、とてもいいチームになっており、キャプテンとしての仕事はほとんどなかった。

 

二宮: 予選ではサウジアラビアとの初戦を引き分け、イランとの2戦目に敗れました。

柱谷:  イラン戦後、ラモスさんがロッカールームで「相手のユニフォームは汚れているのに、ウチのユニフォームは何でキレイなんだ!」と激怒しました。その時にチーム全体で“オレたちは戦う集団だよな”という気持ちを再認識しました。ホテルに戻ってからも都並(敏史)さんやゴン(中山雅史)がチームを盛り上げてくれた。僕がチームのメンタルを上げる必要がなかった。やるべきことはもう周りが理解していたんです。

 

二宮: 柱谷さんはキャプテンに一番求められるものはなんだと思います?

柱谷: やはりバランス感覚ですかね。人とのバランスだったり、意見のバランスを求められます。それは小学生から各カテゴリーでずっとキャプテンをやってきて感じたことです。

 

二宮: キャプテンを任される人は、ずっとキャプテンであることが多いですね。

柱谷: でも僕の子供の頃は仲間のことなんてあまり考えていませんでした。自分が良ければいい、それで勝てばいいという感じでした。しかし、国士舘大学でキャプテンを任された時に関東リーグの連覇を途切れさせてしまった。すごくショックでした。その時の反省が自分のキャプテンシーを変化させました。コミュニケーション能力の必要性を痛感しました。いろいろな人の意見に耳を傾ける姿勢であったり、チームや選手に伝える技術ですね。人の話を聞き過ぎてもダメですし、こちらから一方的に伝えるだけでもいけない。そのバランス感覚が大事です。

 

二宮: サッカー日本代表のキャプテンと言えば、近年では長谷部誠選手が思い浮かびます。

柱谷: 僕は浦和レッズのコーチ時代にマコ(長谷部)を3年教えています。「キャプテンをやりたかったらバランス感覚だから」と言ったことがあります。その時、彼は笑っていましたが、既にそのバランス感覚を持ち合わせていた。誰に対してもきちっとしゃべれる。先輩にもちゃんと意見を言えるし、後輩の面倒見も良かったですね。言葉数は多くないのですが、自然と中心にいる存在でした。

 

“ピッチ上の監督”

 

<聞き手>二宮清純(にのみや・せいじゅん) 1960年2月25日、愛媛県出身。スポーツジャーナリスト。スポーツ情報サイト「スポーツコミュケーションズ」主宰。

二宮: 廣瀬さんも子供の頃からずっとキャプテンでしたね。

廣瀬: はい。僕も柱谷さんと同じで大学の時が一番大変でした。慶應義塾大学のラグビー部のキャプテンを任されました。選手それぞれ競技に対するモチベーションが違いました。幼稚舎の頃からの内部生がいれば、地方から入学した選手もいる。いろいろな環境からたくさんの選手がやってくるので、それをまとめるのは大変でしたね。関東大学対抗戦では5位、全国大学選手権は1回戦負け。結果も残せずつらかった。この経験はとてもいい勉強になりました。

 

二宮: では廣瀬さんが思うキャプテンに必要な資質とは?

廣瀬: 「全体最適」を図ることが重要だと思います。監督は基本的にキャラクターが変わらない。キャプテンは全体が幸せになるためにはどういう役割を果たすべきかと考えることが大事です。あとは言動が大切。自分の役割が決まったら、それをとことんやり通す。そうでなければチームメイトからの信頼は得られません。

 

二宮: 廣瀬さんの中でキャプテンと言えば?

廣瀬: 僕は東芝の先輩・冨岡鉄平さんです。チームのモチベーションを上げるのがうまく、そのために何をすべきかが明確だったのでついていく方もわかりやすかった。

 

二宮: 東芝のOB、現役選手のほとんどがキャプテンと言えば、冨岡さんの名をあげます。

廣瀬: 冨岡さんは“この人のために戦いたい”と思わせるキャプテンでした。

 

二宮: さて柱谷さんから廣瀬さんにお聞きしたいことは?

柱谷: ラグビーは基本監督がスタンドで試合を見ています。試合中はキャプテンを中心に集まり、話し合っている。あの時は戦術の確認を?

廣瀬: 戦術面もあれば、メンタル面の時もあります。

 

柱谷: ラグビーのキャプテンは“ピッチ上の監督”のような位置付けですか?

廣瀬: そうですね。そのイメージは他の競技と比べても強いかもしれません。ただラグビーはポジションリーダーがおり、リーダーシップを発揮する選手は1人じゃない。練習の時からリーダー陣を中心に監督とは綿密にコミュニケーションを取っています。

 

柱谷: よくラグビーの試合を見ていると、キャプテンがパパッと指示を出しているのですごいなぁと感心していました。

廣瀬: 練習中もそういうトレーニングをしています。プレーが切れた約1分で、話し合うんです。短時間で意見をまとめ、次のプレーに繋げる練習は日頃から行っています。

 

“楽しめ”“自分らしく”

 

二宮: ラグビーはサインプレーもありですからね。確認事項は少なくない。

柱谷: 頭が悪い選手は絶対できないと思います(笑)。

 

二宮: いや、サッカーにもクレバーさは必要でしょう。

柱谷: サッカーは本能に任せる部分もありますからね。守備の選手は決めごとが多いですが、前線の選手ほどその傾向は強い気がします。

 

二宮: 廣瀬さんからお聞きしたいことは?

廣瀬: サッカーのキャプテンは監督の指示をきっちり聞いているのでしょうか?

 

柱谷: ベースだけですね。監督もベースに関してはうるさいけど、それ以外の部分は「上乗せ」と言い、選手たちに任せてくれています。(ハンス・)オフトさんは「私の言っていることは試合中に起きる60%でしかない」と、よく言っていました。「残りの40%をいかに自分でカバーし、100%に近付ける選手がいい選手だ」と。僕はすごくいい言葉だと思っています。「100%オレの言うことを聞け!」ではない。

廣瀬: そう言ってもらえると選手もうれしいですよね。エディーさんも同じようなことを言っていました。「フレームはオレがつくる。その先の枝葉はオマエらがつくれ」と。

 

二宮: キャプテン論は尽きませんね。ジュニアや若い世代の悩めるキャプテンたちにアドバイスを送るとしたら?

柱谷: 僕の場合、エンジョイできなければ何も始まらない、ということ。キャプテンだから全部背負い込むのではなく、まずは自分が楽しまないといけません。もしキャプテンをやっていて、苦しいだけであれば辞めるべきだと思う。

 

二宮: せっかくやるなら楽しめと?

柱谷: そうですね。公式戦で入場する時、先陣を切りますし、キャプテンマークをつけるので目立てる。“最高じゃん”と(笑)。優勝した時にカップを掲げるのもキャプテンです。もちろん勝つためには苦しいこともある。しかし、まず楽しいという感情が先行しなければいけないと思います。

 

二宮: 廣瀬さんも?

廣瀬: 僕も同じですね。だから目的にフォーカスするんだと思います。目的を果たすためにキャプテンという役割は重要です。その誇りを持ってやることは大きなモチベーションになります。キャプテンは任命されるものですから、結果責任はあまり取り過ぎなくていいと考えます。選んでもらったのは自分。だから“自分らしく”あることが最大のテーマだと考えています。人それぞれリーダーシップ、キャプテンシーは違う。まずは自分らしさをしっかり貫くことが重要だと思いますね。

 

(おわり)

 

 

 

 

(鼎談構成・写真/杉浦泰介)