東京都江東区は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において最多の競技会場数を有す。「スポーツと人情が熱いまち」をブランドコンセプトに掲げ、東京2020大会の気運醸成に加え、区独自ボランティア「江東サポーターズ」を設立するなど様々な取り組みを行っている。江東区オリンピック・パラリンピック推進室オリンピック・パラリンピック推進課の鳥谷部森夫課長に区独自の取り組みや、課題について訊いた。

 

伊藤数子: 江東区は来年開催の東京オリンピック・パラリンピックの競技会場が一番多い自治体です。オリンピック・パラリンピック推進課では大会の気運醸成のほか、区独自ボランティアである「江東サポーターズ」の運営を任されています。

鳥谷部森夫: 区民の中に「ボランティアをやりたい」という方がたくさんいます。「江東サポーターズ」では、そういう人たちのために気軽に参加できるボランティアを目指しています。実は山﨑孝明区長が1964年東京大会でボランティアを経験しているんです。たびたび「選手村の食堂でボランティアをし、それが貴重な体験になっている」と話しており、ボランティアへの思い入れが強いんです。そうした区長の思いもあり、区民の皆様に“心のレガシー”を残したいと考え、区独自のボランティアを立ち上げました。

 

二宮清純: その活動内容とは?

鳥谷部: 個人で参加できる取り組みとしては、江東区が主催する気運醸成イベントの運営補助、区内主要駅等での道案内などがあります。団体での取り組みは、防犯パトロール、地域における清掃活動などを考えております。

 

二宮: 実際、「江東サポーターズ」に対する反響はいかがでしょうか?

鳥谷部: 予想以上の好反響です。今年の4月に募集を開始したところ、8月1日現在で約900名の登録があります。区内在住・在勤・在学中であれば年齢制限は設けていません。「江東サポーターズ」に登録をしていただければ、こちらからボランティア募集の情報をお伝えし、参加を希望されるものがあれば応募していただくシステムとなっています。

 

伊藤: 小学生以上であれば未成年者でも登録可能なんですね。

鳥谷部: はい。保護者の同意が必要になりますが、未成年者でも登録できます。江東区にはオリンピック・パラリンピック教育推進計画というものがあり、子どもたちに対し、重点的に育成すべき資質の中に「ボランティアマインド、障害のある人への理解」などをあげています。小学生にこのような教育を推進しているため、サポーターズの対象にも小学生を入れるべきだと考えました。

 

 区全体で取り組む

 

二宮: テーマのひとつに掲げている「SPORTS&SUPPORTS」もわかりやすくていいですね。

鳥谷部: これは江東区のブランディング戦略のひとつです。もうひとつの「スポーツと人情が熱いまち」もアピールしていきたいと考えています。

 

二宮: 「人情」とは下町らしさが出ていますね。国内外から訪れた人たちが江東区を回遊する仕組みづくりが重要になります。

鳥谷部: そうですね。「江東サポーターズ」では、観光ボランティアなどの活動もしていければと思っています。会場は湾岸エリアにありますが、深川・城東エリアには江戸文化が息づく神社や昔ながらの商店街があります。来年は“江戸三大祭”のひとつ富岡八幡宮の例大祭が、ちょうど3年に1度の本祭りとなります。オリンピックが閉会し、パラリンピックが開会する間のお盆の時期に行われる予定です。新旧が入り混じる江東区の魅力を伝えられればと思います。

 

二宮: お話を伺っていると、ボランティアという堅苦しいイメージではなく、下町の人情あるお手伝いのような感覚ですね。

鳥谷部: まさにそうですね。「昔の下町の良さはおせっかい」にあると思っています。江東区に来た方に喜ばれるような“おもてなし”をしたい。その“おもてなし”を通じ、区民の皆様には東京2020大会に参加したという記憶が残る。それが大事だと思っています。

 

二宮: 推進課が立ち上がり、約3年が経ちました。

鳥谷部: 推進課の仕事は大きく分けるとふたつあります。ひとつは「江東サポーターズ」の運営や「スポーツキャラバン」という体験イベントを開催し気運醸成を図ること。もうひとつは競技会場を多く抱える中、大会成功に向けて東京都や大会組織委員会との意見交換や調整を行っていくことです。

 

二宮: 大会の気運醸成の手応えは?

鳥谷部: 区内でイベントをやっていますので、かなり盛り上がりは感じています。オリンピック・パラリンピックに対する関心は高く、区役所に問い合わせをたくさんいただいています。

 

伊藤: 江東区はいち早くいろいろなことに取り組まれている印象があります。

鳥谷部: メディアプレスセンターは江東区の東京ビッグサイトに設置されます。また大会期間中は聖火台が区内の夢の大橋付近に設置されます。区長は都議会議員時代からオリンピック・パラリンピックの招致を経験されており、「地元区を盛り上げたい」という強い思いがあります。オリンピック・パラリンピック推進課だけで進めるというよりは、区全体で取り組んでいるんです。

 

(後編につづく)

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鳥谷部森夫(とやべ・もりお)プロフィール>

江東区オリンピック・パラリンピック推進室オリンピック・パラリンピック推進課長。1973年、東京都出身。大学卒業後、私立高校非常勤講師(国語)を経て、1999年4月に江東区役所入庁。2015年4月に豊洲シビックセンター開設準備担当課長、2017年4月に交通対策課長を経て、2019年4月より現職。東京2020大会に向け、区独自ボランティア「江東サポーターズ」の運営や気運醸成事業、関係機関との調整に力を注ぐ。趣味は、読書と野球観戦(阪神タイガース、東京六大学野球)。


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