二宮清純: 2016年に日本知的障がい者サッカー(JFFID)を含めた障がい者サッカー7競技団体を統括する団体として、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)が設立されました。同年に斎藤さんはJIFFの理事に就任しています。JIFF設立の目的は?

斎藤紘一: JIFFの設立は7つの競技団体支援が最初の目的でした。今はそこから発展して障がい者サッカーという大きな括りで普及していくことにも価値があると思っています。JIFFとしては、その2つを軸に進めているところです。

 

伊藤数子: JIFFは日本サッカー協会(JFA)の関連団体として設立されました。これまでは各競技団体がJFAに対し、個々にアプローチをかけてきました。それがJIFFという組織としてJFAと向き合うことができるようになりました。隔世の感がありますね。

斎藤: まだ障がい者サッカーの各競技団体での効果は実感しづらい部分はあるかもしれませんが、JIFFができ、知名度のある北澤豪会長が表に出ていくことで、障がい者サッカーへの関心は確実に高まっていると思います。その意味でもJIFFが果たしている役割は、すごく大きいと実感しています。

 

二宮: JIFFの事務局はJFAハウス内に置かれています。いずれは各競技団体の事務局も置きたいと?

斎藤: はい。事務局機能を共有し、オフィスをつくろうという話は出ています。7団体の中には我々を含め事務局がアパートの一室となっている団体もあります。できればJIFFプラス7団体の事務所が、JFAハウス内にあるというかたちが理想だと思いますね。

 

二宮: ところで知的障がいのある人が健常者のチームに混ざってプレーをするケースもあります。特に住み分けをする必要はないのでしょうか?

斎藤: 今の世の中は混ざり合うことをテーマとして語られることが多い。我々も健常者のチームが障がいのある選手を受け入れられる環境づくりは重要だと思っています。ただ一方で障がい者サッカーという枠組みも必要です。同じような障がいのある人たち同士で切磋琢磨することも大事ですからね。

 

二宮: 一定のカテゴリーの中での目的を持つことは大事ですね。健常者と一緒にやるのもいいけど、そこでレギュラーになれない選手だっています。健常者と混ざり合ってやることだけにフォーカスしてしまうと、そこから先の道が狭まってしまいかねない。

斎藤: 混ざり合ってやることも、それぞれの道を歩むことも、両方が必要なことだと思います。我々が主催している「もうひとつの高校選手権」と呼ばれる全国大会は、特別支援学校だけが出場できます。今年で4回目を迎えました。健常者と同じカテゴリーに所属していたら、なかなか夢を持てなかった子もいたと思います。同じ障がいのある仲間たちと優勝を目指す。そして試合に勝つことで得られる達成感は素晴らしい経験だと思うんです。障がいのある仲間たちと一緒にプレーすることの価値の大きさは、この大会を通じて我々が気付かされた部分でもあります。

 

伊藤: 障がいのない選手たちのチームに行くことが目標のすべてではないし、知的障がい者サッカーの中だけでトップを目指すことがゴールとも限りませんもんね。

斎藤: そうなんです。いずれにせよ本人が前向きな選択をできるかどうか。それを選べる環境にあるかどうかが大事だと思います。

 

 パラスポーツで生まれた変化

 

二宮: パラスポーツを経験し、仲間と何かを成し遂げる達成感が得られる。体を動かすことにより、ストレスを発散できる部分もあるでしょう。プラスに働くことのほうが多いと感じますね。

斎藤: そうですね。我々としても障がいのある子どもたちが早くからパラスポーツに取り組める環境づくりをしていきたい。スポーツを通じ、友達ができることもあるし、おっしゃったようにストレスを発散できる部分もあると思います。実際にパラスポーツを通じて大きく変わった子がいます。引っ込み思案なところがあり、電車に1人で乗れない子がいました。今では遠くの合宿にも1人で電車に乗って行きますし、知らない人が集まる合宿でも仲良くプレーしています。このように周囲から「すごく変わったね」と声をかけられる選手は多いです。

 

二宮: 競技をしていくうちに脳が活性化されていくこともあるのでしょうか?

斎藤: それはあると思います。例えば知的障がいのある人は空間認識が非常に苦手と言われています。一方でサッカーは空間認識能力が重要なスポーツ。加えて人とのコミュニケーションがベースになってきます。サッカーで空間認識能力やコミュニケーション能力が磨かれることもあると思います。

 

二宮: 何より互いを知るということが大事なんでしょうね。

斎藤: 相互理解が一番大事だと思います。パラスポーツに限らず、相手のことを何も知らないと、何かあった時に“怖い”と感じるかもしれません。地域のコミュニティに限らず、自分のことを知ってもらえるコミュニティづくりは大事だと思います。それが共生社会実現にも繋がることだと思います。

 

伊藤: やはりスポーツがこれからの社会を担う役割は大きいですね。

斎藤: はい。我々もスポーツに社会を変えられる力があると信じて、これからも頑張っていきます。

 

(おわり)

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斎藤紘一(さいとう・こういち)プロフィール>

NPO法人日本知的障がい者サッカー連盟(JFFID)理事。1977年神奈川県出身。明治学院大学国際学部卒業。2002年に写真エージェンシーである株式会社アフロに入社後、フリーランスのフォトグラファーに転身。2011年の東日本大震災を海外通信社のフォトエディターとして経験した後、株式会社アフロに復職し、報道写真配信のマネージャーなどを歴任。現在も同社でフォトエディター、スーパーバイザーとして幅広く活動中。障がい者サッカーとは、2009年全国知的障がい者サッカー交流大会の取材をきっかけに関わる。2010年INASサッカー世界選手権南アフリカ大会で広報担当としてチームに帯同。2016年より、一般社団法人日本障がい者サッカー連盟(JIFF)とJFFIDの理事に就任した。2018年の世界選手権では、代表チームマネージャー兼広報、通訳を担当。また、JIFFでは、7つの障がい者サッカーと連携し、共生社会実現へ向けた活動を行っている。

 

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