(写真:東京都千代田区外神田二丁目に鎮座する神田明神)

「神田プロレスって知っていますか?」

 僕の事務所が東京の神田にあるのだが、恥ずかしながらその存在を知らなかった。

 

「8月17日に神田明神にて奉納プロレスをやるのですが、垣原さんに大会の開会宣言をお願いできたらと思います」

 もちろん、喜んで快諾した。勝負の神である神田明神へは、ここ一番の時に決まって参拝に訪れている。そんな高貴な場所で開会宣言をやらせていただくなんて、こんな名誉なことはない。

 

「実はプロレスだけでなく、他にも様々な催しを計画していまして……」

 プロレスの他には、子ども文化事業として狂言のワークショップも行われ、あの和泉元彌さんも出演するというのだ。

 

 驚いたのはそれだけではない。なんとミヤマ仮面のクワレスにもオファーをいただいたのである。

「えっ、念願だった奉納クワレス?!」

 日本が世界に誇れる虫文化を評価してもらえて本当に嬉しかった。

 

 僕は指折り数え本番を迎えたのだが、当日は良い天気を通り越して猛暑日となった。

「台風一過の影響でエライ暑さですね!」

 虫のプロレスであるクワレスを行うのは午後2時。お日様ギラギラでもっとも暑い時間帯に屋外で行うのだ。しかも実施場所は日陰が全くないリング上とのこと。

 

「う~ん、この時間帯のリングは、直射日光をモロに受けてしまい危険すぎる」

 僕は何よりも子どもたちの体調を心配し、クワレスの実施場所の変更を求めた。

 

 プロレスの巨大なリングを動かすのは不可能であるが、虫のリングはコンパクトなので運ぶのは容易だ。今回、クワレスのリングは移動が楽な超ミニサイズのリング(写真左)を用意した。

 ちなみにクワレスのリングはステージ映えする大きめサイズから、テーブルにジャストサイズの中タイプ(写真右)、手の平サイズの超ミニまでバリエーションが豊富なのだ。

 

 境内の大木にできた木陰の下にブルーシートを敷いた。そのエリアに集まってもらい、クワレスを行うこととなった。

 クワレスのリングはMCの娘に手で持ってもらい、日陰についていくように移動させたのだった(まさかこんな形でミニリングが活躍するとは思わなかった)。

 

 肝心のクワレスの対戦カードだが、日本代表のオオクワガタと世界一大きな外国産のギラファノコギリクワガタの一戦を組んだ。プロレスに例えるならアントニオ猪木vs.アンドレ・ザ・ジャイアントだ。

 

(写真:子どもたちにレクチャーするミヤマ仮面<左>とクワガタ忍者)

 このカードは、前々日に東京国際フォーラムで開催の『キッズジャンボリー2019』のステージショーでもおこなった黄金カードでもある。

“クワガタ版アントニオ猪木”の勝ちっぷりを是非とも映像で見てもらいたい(動画『クワレスちゃんねる』を参照)。大人の方でも心を鷲掴みされること違いなし。

 

 さて、神田プロレスがスタートしたのは、境内に涼しい風が吹き始めた夕方だった。

 リングを強烈に照らしていた太陽は建物に遮られ日陰となり、快適この上ない空間に様変わりしていた。

 

「この時間帯にクワレスやりたかったなぁ」

 本音がポロリと出てしまった。

 

 リングの周りには、大勢の観客が取り囲み、今か今かと奉納プロレスを待ちわびていた。

 僕は、神田プロレスのオープニングに登場し、早々と開会宣言を済ませ、リングを降りようとしたのだが……。

 

 その時ハプニングが勃発した。

 なんと若林健治アナが僕の腕を強く掴み退場を阻止したのである。

 若林アナとは、かつてジャイアント馬場さん率いる全日本プロレスの中継で、実況をされていた名物アナウンサーだ。僕も小学生の頃、その熱のある実況を聴いていたファンのひとりである。

 

 僕を強引にリングに引き留めた若林アナは、僕の紹介を熱弁し始めたのだ。

 かいつまんだざっくりとした経歴ではなく、かなり詳細に語り始めたのである。

 入門の大根エピソードから話し始めたのだから、僕も正直驚いた。

 

 こんなの打ち合わせでは聞いていない……。

 神田プロレスを早く見たいと思っているファンの皆様には申し訳ない気持ちになったが、

 若林アナの暴走は止まる気配はなかった。

 がん発症や復帰戦の話まで辿り着くのに数分かかり、そのあいだ横で聴くしかない僕は進行のことばかり心配してしまった。

 

 しかし、ここまで僕のことを調べ上げてくれた若林アナの熱い想いは素直に嬉しかったし、自分なんかのために時間を割いてくれたことが有難かった。

 何よりも神前で、垣原賢人をガッツリと紹介してもらえたことは幸運だったと思う。

 嬉し恥ずかし、ではあったもののサプライズ演出に大感謝である。

 

(写真:2015年に設立した神田プロレス)

 さて、試合で目を引いたのは、雷神矢口選手とTAMURA選手(試合ではマスクマンであったが正体バレバレ)だ。雷神矢口選手は、浅草プロレスや町田プロレス、三浦プロレスなど地域に根差したプロレス団体をいくつも展開しているだけあって、プロレス一見さんへの魅せ方が上手いのである。何よりも身長188cm、体重130kgと体が大きく、プロレスラーだと分かりやすいのだ。

 

 TAMURA選手の方は、ヒートアップという川崎市を拠点に活動している団体を運営しているため、プレイヤー目線だけでなく全体を見渡せてファイトできていると感じた。

 

 TAMURA選手は、雷神矢口選手と正反対に160cmと身体がとても小さいのだが、逆にそれが大きな武器となっている。プロレスのリングは個性がないと生き残れない世界だ。

 

(写真:真剣な眼差しでリングを見つめる和泉元彌<中央>と筆者)

 今回、会場実況があり、自分も解説をやらせていただいたのだが、なんと和泉元彌さんともご一緒することとなった。お笑い芸人が「そろり、そろり」と物真似しているが、やはり本物のオーラは違う。元彌さんは、礼儀作法の見本のような方で、解説中も気品があった。

 

 狂言とプロレスの共通点などを分かりやすく説明するなど解説でも超一流だった。

 横で聴いていた僕にも心に突き刺さる言葉がいくつもあり、大変勉強になった。

 

 様々な気付きがあった奉納プロレス&クワレスであったが、神様がつないでくれたこのご縁を今後生かしていきたいと思っている。

 

 来年の夏は、デビュー30周年を迎えるので、面白いことを考えていきたい。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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