(写真:九州プロレス代表の筑前選手<右>との2ショット)

「九州プロレスのリングにミヤマ仮面の登場をお願いします」

 試合ではなく、チビッコたちの盛り上げ役にとご使命を受けた。

 

「わかりました。クワレスでチビッコたちを盛り上げます!」

 一度プロレスのリング上でクワレス(虫のプロレス)をやってみたかったので、声を掛けてもらえて嬉しかった。

 

 実は九州プロレス代表の筑前りょう太選手とは、古くから面識がある。

 最初に出会ったのが全日本プロレスだったので、もう20年にはなるだろう。

 全日時代の彼は、SHIBAというリングネームのマスクマンだった。

 ジュニアヘビー級ではなく、体格は大型の部類に入るものの、ルチャリブレもできるファイトスタイルであった。

 

 そのルーツを聞いたことがあるが、コーチはあのエル・カネック選手だという。

「大学を卒業してから、バイトで100万円ぐらい貯めて単身メキシコに渡りました」

 まず、国内を飛び越えてメキシコに行こうと思ったのがスゴイ!

 そして、渡航費や向こうでの生活のためにお金を貯めたのも感心する。

 

 しかもレスラーになるために大学4年間で、40kgも増量したというから根性の人だ。

「入学時は60kgほどの細い体でしたが、卒業時には100kgになっていました」

 その本気度に親も反対できなかったのは納得である。

 

 しかし、3年にも及ぶメキシコ修行時代は一気に体重が減ってしまうほど大変だったようだ。このメキシコ時代には、なんとミル・マスカラス選手とも対戦経験があるというから羨ましい! マスカラス選手は僕たち世代にとって雲の上の選手なのである。

 

 帰国してから、その存在を満天下に知らしめたのは、魔界倶楽部のメンバーとして新日本プロレスのマットに上がってからだろう。

 星野総裁こと星野勘太郎さん率いる魔界軍団は、新日本マットを席巻したが、彼はその一員として活躍したのである。

 

 ちなみに他のメンバーは、安田忠男選手や村上和成選手を筆頭に柴田勝頼選手、長井満也選手、柳沢龍志選手など総合格闘技のリングでも活躍した錚々たる顔ぶれが並んだ。

 アクの強いメンバーの中で、彼は試合を成立させる重要なポジションを担っていたのだった。

 僕は何度か対戦したが、U-30の公式リーグ戦で彼に苦杯をなめさせられた試合が一番印象に残っている。しかし年齢も同じの彼とは、試合をした間柄だけでは終わらなかった。

 

 なんとミヤマ仮面のマスクの生みの親が筑前代表なのである。彼はレスラーだけでなく、

 マスク職人の顔も持ち合わせていたのだった。

 

 そんな手先の器用な筑前代表は経営者としても敏腕ぶりを発揮している。

 地元の福岡で九州プロレスを立ち上げ11年になるが、社員も増え、団体はどんどん大きくなっている。その経営手腕を読売新聞が取り上げるほど伸びているのだ。

 

「九州ば元気にするバイ」をキャッチコピーに地域密着型のプロレス団体として九州各地で精力的に活動している。地方では社会人プロレスと呼ばれるアマチュア団体は多いものの、プロの団体として機能しているのは数少ない。

 

(写真:リング上でのクワレス。チビッコの反応も良かった)

 どのような戦略でプロレスビジネスを展開しているのか筑前代表に聞いてみた。

「野球をはじめどのスポーツも企業がバックアップして成り立っている。九州プロレスもそこに目を向けました」

 筑前代表の言葉にハッとさせられた。プロレス興行の常識は、昔からチケット代やテレビなどの放映権料だ。ジャイアント馬場さんが「お客様こそがスポンサー」と公言していたことを思い出した。企業の支援を主軸にする頭などプロレス村の住人にはなかった。

 

「企業の皆様のお蔭で入場無料の大会が行えるのです」

 なるほど! 入場無料だと一般の方でも気軽に会場に足を運んでもらえる。

 新日本プロレスのようにテレビがついている大きな団体なら宣伝力もあり、チケットは売りやすいが、地方団体となるとどうしても苦戦してしまう。その意味では入場無料の形は、団体にもお客様にも優しいと言える。しかし、企業に目をつけたまでは良いが、実際に大会をスポンサードしてもらうのは簡単な話ではないだろう。当然ながら企業にとってのメリットを問われるからだ。

 

「試合以外では施設への訪問などに力を入れてやっています」

 九州プロレスが100社を超える多くの企業から応援してもらえているのは、もちろん営業努力もあると思うが、一番はこの社会貢献活動を上っ面だけでなく、真摯に続けているからだろう。

 

「老人ホームや児童養護施設などの訪問は年間360回ぐらい行っています」

 筑前代表のこの言葉に驚いた。360ということは、ほぼ毎日になる計算だ。

 1日に3~4軒、回る時もあるようで、年間としてこの数字になるという。

 選手たちは、試合や練習をやりながら、これを継続して行なっているのは本当に凄いことだと思う。もちろん、これで試合の質が落ちてしまったら本末転倒となるが……。

 

 さて、肝心の試合を生観戦したのだが、まず選手が分かりやすいキャラクターなのだ。

 めんたい☆キッドに阿蘇山、桜島なおき、玄海、ラ・カステーラなどすべて九州にちなんだリングネームなので覚えやすい。

 

 阿蘇山選手などは入場時にマスクからモクモクと煙が立ち上がっていたが、噴火をイメージした面白い演出に思わず笑みがこぼれた。ほのぼのとした雰囲気とは裏腹に試合の組み立ては堅実で、受け身の技術も素晴らしかった。九州プロレスの選手は、試合のグレードも人柄も最高だったのである。これは社会貢献活動がプラス効果を生んでいるのだと推察する。

 

 施設を回ることでレスラーとしての責任感を強く持ち、それが練習や試合にうまくリンクしているのだと思う。筑前代表に今後の目標を尋ねてみたが、らしい答えが返ってきた。

「今はまだ選手たちに営業などフロント業務をやってもらっているので、試合だけで生活ができるようにしてあげるのが目標です」

 

 九州男児の筑前代表は、どこまでも優しくて熱い男なのである。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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