(写真:リング下でのクワレス風景)

 この数年の間、春夏は『クワレス』(虫が行うプロレス)、秋は『森のプロレス』というサイクルが続いている。

 

 スタートして十数年になるクワレスは今も成長を続けていると自負しているが、年に2~3回ほどしか開催していない森のプロレスにおいては、まだまだ軌道に乗れていないと感じる。

 森のプロレスに上がってくれている選手たちは頑張ってくれているのだが、プロデュースをしている自分自身に対して歯がゆいところがある。

 

「いまいち森プロの色が出ていないよね」

 息子の意見に反論できない自分がいた。

 

 一度じっくりと自分を客観視してみるべきだ。そう考えた僕は、いわゆる自分探しの旅に出たのである。このことは昨年11月のコラムにも書いたが、森のプロレス終了後にその足で古都・奈良を目指し、正倉院展で日本の宝を拝んだ。国宝級の品々を見れば、鈍っている感性を覚醒させることができると考えたのだ。

 

 続いて、これまで行ったことがなかった広島の原爆ドームを訪れた。戦争という負の遺産に目を背けず、そこで何を感じるのか身を置いてみたのである。

「敗戦での絶望の淵から、よくぞここまで復興した広島、そして日本は半端なくスゴイ」

 

 僕は広島の街並を歩きながら、先人たちの不屈の精神を見習わなくてはと思った。

「がんになったからと言って小さくまとまって生きていてもつまらない。一度きりの人生、てっぺんを目指そう」

 これが自分探しの旅の答えであった。

 

(写真:ラコダールツヤクワガタ。イベントやクワレスなどでアートなクワガタとして紹介)

 てっぺんを目指すためには何を大切にし、何が自分の強みなのか熟考してみた。

「あっ、森のプロレスに足りなかったものが見えた」

 森のプロレスでは実施しなかったクワレスが必要不可欠だったことに今更ながら気付いたのだ。驚くほどあっけない解決策だが、これは決して思いつかなかったわけではない。

 

 以前にもリング上でクワレスをやったことはあるものの、正直相性は良くなかった。

 だから森のプロレスの時はクワレスをやらないでいたのである。

 それが一周回って、「クワレス+プロレス」となったのだから、後はやり方次第なのかもしれない。

 

 どのような形式をとればクワレスと森のプロレスが活きるのか? これまでと同じことをしていては、結果が目に見えている。

「クワレスに色々掛け合わせてみてはどうだろう?」

 息子の案を採用し、手当たり次第コラボすることにした。

 

 今年、いろいろとトライした中で面白かったのは『鉄道クワレス』だ。なんと貸切車両の中でクワレスをやるという斬新な試みであった。移動するので当然ながら揺れるが、普段からヒンズースクワットや四股踏みで足腰を鍛えてあったので、少々の揺れではクワレスに支障をきたすことはない。それにしても車窓の景色が変わる中でのクワレスは新鮮だった。

 

 鉄道クワレス、悪くない!

 コラボすることで、クワレスの新たな可能性が広がったと感じ、僕は自信を深めた。

「よしよし、今後どんな無茶なコラボでも絶対にノーと言わずトライしよう」

 

(写真:京都国際映画祭イベントでのアート作品をバックにクワガタポーズ)

 このような心構えでいると次々と刺激的なオファーが舞い込んでくる。

「京都国際映画祭のイベントの中でクワレスはできますか?」

 映画とクワレス? 面白い! これはテンションが上がった。

 

 京都国際映画祭ではアート部門というのがあり、数日間アート作品の展示やイベントなどを行うらしい。そこで今年初めて、アート部門にプロレスそしてクワレスが選ばれたのである。プロレスラーは肉体芸術であり、繰り出す技も芸術性がある。クワガタに至っては、その造形美を誰もが認めるところだろう。

 

 特に外国産のクワガタの形や色は、まさにアートだ。

 当日は、リングの真ん中にテーブルを置き、それを取り囲むようにお客さんにクワレスを見てもらった。ただ、やはりリング外の客席に座っている方たちとは距離があり、置いてけぼりにしてしまう。

 

「やっぱりね、困った」

 コーナーポストなどリングを縦横無尽に使いこなすプロレスラーと違って、小さな虫の闘いは遠くからでは見えづらいのだ。森のプロレスにクワレスを加えなかったのは、この課題をクリアできないからなのである。

 

「リング内でクワレスをやろうという発想を一度消してみたら」

 息子のパスを受けて、僕はリング下に子どもたちを中心としたファミリーエリアを作り、そこでクワレスを行うことを思いついた。

 

 クワレスとプロレスをリンクさせるために第0試合というスタンスでクワレスを行い、クワガタのセコンドに昆虫のマスクを被ったレスラーが付く。クワレスの決着後にセコンドの昆虫マスクのレスラーたちが争いを始め、戦場をリングに移し、そのままプロレスの第一試合が始まるという流れだ。

 

 この案を森のプロレスin富士スピードウエイ大会で採用してみたのだが、手応えは十分あった。

 

(写真:藤波選手とクワガタポーズ)

 第0試合にクワガタが出場し、なんとメインに藤波辰爾選手が出るという物凄いコラボを実現させてしまったのだ。これはプロレスの歴史上、驚きの事件だと思う。

 世界最大のプロレス団体であるWWE殿堂入りのレスラーである藤波選手がクワガタポーズをやったのだから、ミヤマ仮面をやってきた者としては涙もんである。

 

 次は、明後日の27日に森のプロレスin弁天島大会だ。ここでも「クワレス+プロレス」の実験を更に行いたいと考えている。

 発想の転換で新たな可能性が生み出され、森のプロレスが進化していく。

 面白くなってきた!

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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