「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通し、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 

 今回のゲストは大学スポーツの統括組織『UNIVAS』(大学スポーツ協会)の池田敦司専務理事です。池田専務理事はプロ野球の楽天野球団副社長、サッカーJリーグのヴィッセル神戸の球団社長も務めました。UNIVASが目指す大学スポーツの未来とは――。

 

 中長期的な目線

 

二宮清純: 今年3月にスタートしたUNIVASはNCAA(全米大学体育協会)を参考にした組織です。8月にKDDI、マイナビ、MS&ADインシュアランスホールディングス、KEIアドバンスの4社とパートナー契約を結びました。契約年数は?

池田敦司: 全社5年契約です。各社とも短期的な広告効果ではなく、中長期的な目線を持ち、“UNIVASを一緒に育てていこう”という思いで協力していただいています。

 

今矢賢一: マイナビはビジネス的にも繋がりが深くなりそうですね。

池田: 一番本業とリンクがしやすい企業だと思います。大きくまとめるとキャリア形成。社会に出て行くための準備と、受け入れ企業の斡旋は重要なことです。マイナビはアスリートに特化したセカンドキャリア支援などの仕組みづくりを既にスタートしていました。

 

二宮: KDDIは通信?

池田: ええ。大きくは2つあります。これから通信が次世代通信規格の5Gに変わっていきますので、動画コンテンツの持つ価値は今まで以上に高くなります。様々な試合の映像化によって、より多くの人たちに大学スポーツを見てもらえる環境をつくります。もうひとつは、競技者さらに素晴らしいパフォーマンスを上げることができるよう、練習環境を整備します。そのために、データベースを構築し、各大学や連盟との連携を強めていきたいと思っています。

 

今矢: UNIVASに登録している大学や団体に所属する学生は、個人情報も登録するということでしょうか?

池田: それはこれからですね。まずは我々と大学、我々と団体が連携する。そして個人個人に許可を取りながらデータベース化していくのが第一段階となります。推定で10万人。最大で17万人分のデータが集まると思います。

 

二宮: データベースは10万人を超えればビジネスになると言われています。対象はスポーツ選手、関係者ですからトレーニングや栄養学などヘルスケアにも応用できるでしょうね。

池田: そうです。KDDIの関連会社が選手のコンディション管理に役立てるアプリをつくりました。他に大学の研究機関で、ゴルフのスイングをした時の筋肉の熱量をビジュアル化できるものもあるそうです。

 

 ケガのリスク

 

二宮: 保険会社のMS&ADは選手がケガをした際のリスクヘッジでしょうか?

池田: 現在、大学スポーツの保険は主にスポーツ障害保険と学生教育研究災害傷害保険(学研災)の2種類が担っています。学研災は正課中や学校行事中なども対象となる大学活動の総合的な保険です。競技によってはケガのリスクが高いものもあります。保障が今の2つで十分じゃないという意見もありますから、保険の専門家にも実態把握をしていただきたいと思っています。

 

二宮: UNIVASに登録すれば、強制的に新しい保険に入るようなかたちになるのでしょうか?

池田: まだそこまで具体的には描けていません。ただ、学生によっては経済的に苦しい場合もありますからUNIVASがある程度補填することも考えています。

 

今矢: 競技によってリスクの程度が違いますからね。UNIVASという共通のプラットフォームにより、できることがありますよね。

池田: そうですね。UNIVASがどうあるべきか。真っ先にやらないといけないのはセントラリーゼション(機能の集中化)、支援オペレーション、スケールメリットを発揮できるサービスだと思うんです。現在加盟していただいている222大学34団体、推定17万人を対象にしているからこそ例えば保険も開発できる。そういうことをやるべきだと思っています。

 

二宮: プロスポーツでも保険の問題はついてまわります。代表活動の際にケガをしても、実際に給料を支払っているクラブには保障がない場合もあります。

池田: 我々はそういうリスクまで見ておかないといけません。まだアメリカほど大学がガバナンスを発揮し、すべてを管理統括できているかと言うとそうではない。その点も課題だと感じています。

 

二宮: 大学スポーツは競技や団体によって歴史や考えも違うでしょうし、それをまとめるのは容易ではありません。

池田: そうなんです。たとえば日本学生選手権水泳競技大会、いわゆる水泳のインカレは日本水泳競技連盟と同様、95年前に始まりました。それをできたばかりのUNIVASが“ああしろ、こうしろ”とは簡単には言えません。

 

二宮: 自分たちが学生スポーツを支えてきたという自負もあるでしょうからね。とはいえ法人化もされていない団体に資金を渡すなどすれば問題も出てきます。

池田: 現在UNIVASでは34の団体が入っています。それらは3つに分けられ、学連については法人格を持ったものとそうでないものがある。そしてもうひとつがNF(国内競技統括団体)の中にある学生部です。NFについてはほぼ法人化されています。学連の法人化されていないところは3年後までに法人化を目指してください、とお伝えしています。

 

今矢: UNIVASが設立されたことでガバナンスを強化するきっかけとなるのでしょうね。

池田: ガバナンスもマーケティングもままなっていませんでしたからね。

 

二宮: スポンサー、配信事業に加え、ビッグデータも事業の柱となっていくのでしょうか?

池田: 基本的には経済循環モデルです。これまでバラバラだった学連や大学の経済資源を共通化することによって収益をあげ、それを還元していくシステムになります。恩恵をアスリートに与えるためには今はコストを突っ込まないといけない。その分、稼がないといけませんからパートナーにご協力をいただいたり、配信事業で収益を得られるようにする必要があります。

 

今矢: 配信での収益化はこれからの話ですか?

池田: 当面は広告モデルでしょうね。それを権利モデルに変えるためには認知されないことには価値が生まれない。認知されてコンテンツ価値が上がった段階で、収益化を図ります。例えばUNIVAS会員は動画視聴が無料、メンバー外は有料という課金制も考えています。

 

二宮: 大学スポーツとなると現役学生に加え、その家族、ファン、大学OBを含めれば、かなりの数になりますね。ビジネス面においては、ここをどう取り込んでいくかも重要になります。

池田: おっしゃる通りです。特にOB・OGは大きなステークホルダーです。例えば1学年に部員が100人いる競技部が40年続けば、OB・OGは単純計算で4000人いるわけですよ。

 

 地域との共存

 

二宮: 大学スポーツが盛んなアメリカでは、大学がスタジアムやアリーナを所有しています。そうでない日本では自治体との協力も重要になっていきますね。

池田: 青山学院大学が体育館をプロバスケットボールのB.LEAGUEサンロッカーズ渋谷に貸したことはすごく大きなことだと思います。まだ日本の大学体育施設の多くは“するスポーツの施設”なんです。“観るスポーツの施設”になっていないことも課題です。

 

今矢: 日本のトップリーグが開催されている会場でも、“観るスポーツの施設”になっていないところが散見されますね。

池田: 私もあまり多くの競技場を観て来たわけではないのですが、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校にはウォルターピラミッドという体育館があります。そこはバスケットボールコートを5面もつくれるスペースがある。ボタンひとつで可動式の観客席が降りてきて、6000席のアリーナにもなるんです。

今矢: 僕もシカゴのイリノイ大学でアメリカンフットボールの試合を観ましたが、大学の敷地内にあるスタジアムで有料チケットにも関わらず3、4万人の観客を集めていました。“大きいな”と驚いていたら、「デンバーにはこの倍のスタジアムがあるぞ」と言われ、さらにびっくりしました。

 

二宮: 日本の大学関係者を見ていると、大学のことは見ているけど地域のことまでは目を向けていない印象があります。地域と共存していこうという意識はアメリカに比べると薄い気がします。

池田: おっしゃる通りです。少子化が進んでいる日本において、大学がどういう使命を持っているか。地域の経済の中核になるべきなんです。なぜかと言えば、大学は人材育成を行っているわけで、育った人材を地方経済に還元していくモデルをつくらなければいけない。そこまで大上段に構えなくても地域のコミュニケーション拠点になるべきだと考えています。私の勤める仙台大学は宮城県柴田郡柴田町にあります。ここはまちの名所がなく、大学がランドマークになりうる存在です。柴田町との連携で運動教室や体操教室を開いています。まだまだ点の動きですが、それが大きな面になればいいと思っています。大学の地域貢献はすごく大きなテーマです。地域に貢献しなければ地域からも寄付が集まりにくいですしね。

 

二宮: 今後の方向性は?

池田: まだできて半年が過ぎたところです。スポーツ全体を見渡せば、組織的に可動できていなかったのは大学世代だけ。我々がやるべき課題はたくさんあると思います。学びの環境を充実させ、安心して競技に取り組めるようにサポートしたい。そして大学スポーツを盛り上げたい。まだまだできたばかりの組織ですが、“UNIVASは何をするの?”と興味を持っていただけている。そういった機会に我々がやろうとしていることを少しでも多くの人に伝えたいと思っています。

 

池田敦司(いけだ・あつし)プロフィール>

1956年、仙台市出身。早稲田大学卒業後、西武百貨店にて販売促進、顧客戦略など幅広くマーケティング業務を担当。2005年、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの創設に参加、ボールパーク構想と地域密着戦略を進め、取締役副社長を務めた。15年クリムゾンフットボールクラブ(Jリーグ・ヴィッセル神戸)代表取締役社長に就任し、集客強化とファシリティ改善を推進した。17年から仙台大学の教授に就任。19年に設立したUNIVAS(大学スポーツ協会)の専務理事に就いた。

 

(鼎談構成・写真/杉浦泰介)


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