「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通し、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 

 今回のゲストは日本ラグビーフットボール協会理事で、日本車いすラグビー連盟の副理事長を務める中竹竜二氏です。2021年秋には国内でラグビー新リーグがスタートします。中竹氏が語るラグビーの持つポテンシャルとは――。

 

第18回中竹竜二(チームボックス代表取締役/日本ラグビーフットボール協会理事兼日本車いすラグビー連盟副理事長)「スポーツとビジネスの架け橋になる」

 

二宮清純: 中竹さんは現在日本車いすラグビー連盟の副理事長を務めています。昨年10月、ラグビーW杯日本大会期間中に車いすラグビーワールドチャレンジが日本で行われました。2018年の世界選手権で優勝した日本代表は、今回は銅メダルでした。この結果はいかがですか?

中竹竜二: チームは金メダルを取る前提でやっていたので、選手たちは相当悔しがっていました。

 

二宮: 地元開催のパラリンピックに向け、金メダルへの課題が見つかったということでしょうか。

中竹: そうですね。私は前向きにとらえています。

 

今矢賢一: 日本はリオデジャネイロパラリンピックで銅メダルを獲得しました。当時からメンバーは変わっていますか?

中竹: 実はそんなに変わっていないんです。池(透暢)、池崎(大輔)といった主力はそのまま残っています。これからはロー、ミドルポイントのプレーヤーがどう活躍するかですね。組み合わせにしても、18年に世界一になった時のメンバーである倉橋香衣という女性選手が入れば、布陣もだいぶ変わり、チーム力も大きく変わることになるでしょう。ローポインターの彼女がケガでワールドチャレンジには出場できませんでしたので。

 

 リーダーグループの存在

 

二宮: 中竹さんは日本ラグビー協会の理事も務められています。去年のラグビーW杯で日本は初のベスト8進出を果たしました。

中竹: チームとして素晴らしい成果をあげたと思います。どのゲームの戦いぶりも良かった。予選を全勝で突破し、準々決勝の南アフリカ戦も強い相手に思い切りチャレンジできた。その意味では最高のW杯だったと思います。

 

二宮: 大会MVPは?

中竹: チーム全員で勝ち取った成果だとは思うので、なかなか一人には決められませんが、強いて言うなら松島(幸太朗)。勝負どころで点をとったのは彼ですね。あとは精神的な支柱で堀江(翔太)の存在は大きかったのではないでしょうか。派手なプレーではそこまでは目立ちませんでしたが、勝負の肝となる場面でとてもいい仕事をしていました。

 

二宮: 経験豊富な彼がFWやチームをまとめた、と皆さんおっしゃいますね。キャプテンのリーチ・マイケル選手のリーダーシップはどうでしたか?

中竹: 私はリーチというよりは、リーダーグループの存在が大きかったと思います。いろいろ入れ替わって最後は8人で構成されました。31人のスコッドの中にこれだけの数のリーダーグループをつくったということは、ジェイミー(・ジョセフHC)の本当の功績でしょう。

 

二宮: ジェイミーHCは予選リーグ2戦目のアイルランド戦ではスタメンからリーチ選手を外し、ゲームキャプテンにピーター・ラブフスカフニ選手を起用しました。

中竹: 本大会直前の南ア戦からリーチの調子はそれほど良くなかった。予選リーグ初戦のロシア戦でも本調子ではありませんでした。それでジェイミーはアイルランド戦では、キャプテンから外したんですね。その時に他の選手たちが違和感なく、リーチに気を遣うこともなく、普通にプレーできたのがチームの本当の強さだったといえるでしょう。リーチ本人にもジェイミーがうまい伝え方をしたようです。「試合の終盤、一番つらく大事な時に真のリーダーにグラウンドに立っていて欲しい」と。素晴らしいシナリオだなと思いますね。

 

今矢: そう言われれば悪い気はしないでしょうね。

中竹: リーチ自身も、いちプレーヤーとして集中できたそうです。前半で交代出場したので、思った以上に早く入りましたけどね(笑)。プレーヤーとしてのパフォーマンスとしても、あの試合のリーチが一番良かった。それはチームがキャプテンとしてのプレッシャーを全部取っ払ってあげたからでしょう。本人も「僕がやらなくても他のプレーヤーが絶対やってくれると信じていたので、一人のプレーヤーとしてゲームに専念できました」と言っていました。その意味ではチームとして勝ったということ。リーダーグループの絆も高まった試合だったと思います。

 

 ONE TEAMになるための時間

 

二宮: 日本代表が結果を残したことで、ラグビーのチームビルディング的なもののスキルが他の組織で生かせるという見方が広がってきています。国籍が違う選手もいれば、肌の色、体の大きさもそれぞれ違う中で結果を出した。それが今後の共生社会に生きるのではないか、と。チームスローガンのONE TEAMは流行語大賞にも選ばれました。

中竹: そうですね。チームづくりとしても基本的にはキャプテン1人、バイスキャプテンが2人という構成なのですが、今回は約8人のリーダーグループをつくりました。リーダーグループが主体的に他のメンバーと一緒に考え、議論する場をつくっていきました。また練習、ミーティング以外でのコミュニケーションをとっていたようです。例えばちょっとしたグループでカフェに行ったり、みんなで外にごはんを食べに行ったり、インフォーマルな場でのチームづくりをかなり重要視していました。

 

二宮: いわゆる“飲みニケーション”とかも?

中竹: はい。例えばビジネス場をとっても、一緒に仕事をしているだけでは、ONE TEAMにはなりません。それはスポーツの場合も同じです。今回の日本代表チームは、何よりもONE TEAMになるための活動に時間を割いたということでしょう。それを認めたジェイミー・ジョセフという指導者は素晴らしいと思います。私も監督経験がありますが、時間との勝負なんです。1日のスケジュールにミーティングを数回入れたいし、当然練習にたくさんの時間を割きたい。選手のコンディションを考えるとマッサージなどのケアの時間も設けたい。そうすると選手を拘束する時間は長くなりますからね。

 

今矢: そうすると選手の不満も溜まると?

中竹: そういうことです。こちらも良かれと思ってやっているのですが、選手からすれば自由時間もほしい。それをジェイミーは、選手同士でゆっくりする時間をつくった。ONE TEAMにするためにチームを家族にしたのでしょう。そういった方針を出せたというのは、私自身も目から鱗でしたね。

 

二宮: 指導者が「時間との戦い」というのは面白い視点です。限られた時間をどう割り振りするか。

中竹: 私は朝から分刻みでスケジュールを組んでいました。練習は秒単位。秒単位で設計する中で、余白の時間をつくった。

 

今矢: それを考えるとラグビー指導者のマネジメントは大変ですね。ある意味ビジネスよりも大変かもしれません。

中竹: マネジメントに正解はなく、人によっていろいろなやり方があります。前任のエディー・ジョーンズは、全く違ったやり方でした。

 

 政権交代の妙

 

二宮: エディーさんは強権的なところがあると言われていましたが、15年W杯イングランド大会で強豪・南アフリカを破るなど3勝をあげ、結果を残しました。それが今回に繋がったことは間違いありません。エディーさんからジェイミーHCの政権交代が良かったのでしょうね。

中竹: そうですね。順番も逆だったら両方ダメだったかもしれませんね。

 

二宮: サッカー日本代表は、大筋ではハンス・オフトさん、フィリップ・トルシエさん、ジーコさんが繋ぎ、現在は森保一さんが監督を務めています。最初は外国の指導者に引っ張ってもらって、ある程度結果が出たら日本人も。ラグビーもいずれはそういうかたちになるんですか?

中竹: そうですね。その方向性で進んでいると思います。今、スーパーラグビーに参戦しているサンウルブズの大久保(直弥HC)氏、沢木(敬介コーチングコーディネーター)氏は日本人の指導者として将来の監督の候補に入ると思います。

 

二宮: 日本人指導者がW杯の指揮を執るうえで足りないものは?

中竹: W杯本大会でというよりは、チーム強化の点で言えば、優秀なコーチを連れてきたり、強豪国とマッチメイクできるかどうかが重要になってきます。

 

今矢: グローバルなネットワークが必要ということですか?

中竹: そうですね。あとはスーパーラグビーやフランスのトップ14のようなタフな試合をどれだけこなせるか。その意味で今年、大久保氏と沢木氏がサンウルブズに入ったことはすごくいい経験になっています。タイトなスケジュールの中で、いかにチームをマネジメントできるか。サンウルブズはジャパンの強化のために結成されましたが、今季は選手だけでなく指導者育成にも繋がっていると考えることもできますね。

 

二宮: 中竹さんは2014年、企業のリーダー育成を行うチームボックスを設立しました。今後の目標についてお聞かせください。

中竹: 我々は、“リーダーが変われば組織が変わる”という考えをもとに、集合トレーニングやコーチングを交えた実践型トレーニングを行ってきました。いままではビジネスの場を中心に行ってきましたが、最近はプロスポーツチームでの導入をはじめるところも増えてきました。感じるのは、ビジネスとスポーツの境界線はないということ。今年はオリンピック・パラリンピックがありますが、さらに垣根を越えて、スポーツのノウハウをビジネスに持ってきたり、ビジネスのノウハウをスポーツに導入したりしたいと思っています。私自身の強みでもあり、スポーツとビジネスの架け橋となる会社になっていきたいと思います。

 

今矢: 対象はリーダーに限っているのでしょうか?

中竹: 今のところはそうですが、今後は企業の新人や若手といった未来をつくるリーダーについてのアプローチも進めていきたい。最終的には、人が成長し変革していくことをサポートしていきたいと考えています。

 

中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)プロフィール>

1973年生まれ。福岡県出身。小学1年でラグビーを始める。早稲田大学卒業後、イギリス留学を経て01年三菱総合研究所に入社。06年に母校・早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、07年度から2年連続で全国大学選手権2連覇に導く。その後、20歳以下の日本代表監督、コーチを歴任。16年にはアジアラグビーチャンピオンシップで日本代表ヘッドコーチ代行として指揮を執った。17年に日本ウィルチェアーラグビー連盟の副理事長、代表理事を務める。18年7月より再び副理事長に就いた。19年6月に日本ラグビーフットボール協会理事に就任。現在は株式会社チームボックス代表取締役を兼任している。

 

(鼎談構成・写真/杉浦泰介)


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