その用語を目にするたびに、いつも違和感を覚えていた。「非正規雇用」という労働用語に対して、である。その対語は必然的に「正規雇用」である。「正社員」「正職員」という用語もある。非正規の社員や職員は「正」の付く人たちに比べ劣後しているということなのか。言葉の背後には、そんなニュアンスが張り付いている。<人が差別をするのではなく、その人の置かれた社会的な立場性が人をして差別をなさしめる>(『構造的差別のソシオグラフィ』三浦耕吉郎編・世界思想社)のであれば、これは看過できない。

 

 スポーツの世界においても未だに用語に起因する「構造的差別」は根強く残っている。「正選手」の対語は「補欠」であり、レギュラーになれない選手を「控え」と言ってみたりする。だが、慣れとは恐ろしいもので、ずっとそうした環境に身を置いていると、精神的な痛痒をあまり感じなくなる。「悔しかったら正選手になってみろ」などと見当違いの発破をかける指導者もいて、宿弊を一掃するのは容易ではない。

 

 ジャパンの躍進を以前なら「リザーブ」と呼ばれた選手たち、すなわち「インパクトプレーヤー」が支えている。5日のサモア戦では後半から投入されたHO堀江翔太、PR中島イシレリ、ヴァルアサエリ愛が最前線で体を張り続けた。LOヘル・ウヴェは3トライ目を奪ったWTB福岡堅樹へのボール供給の起点となった。福岡も途中出場だ。

 

 SH田中史朗はピッチに入るや名刺代わりの強烈なタックルで敵の機先を制し、その後はリズミカルな球さばきで、一瞬たりとも攻撃を停滞させなかった。結局、ジェイミー・ジョセフHCは23人全員を使い切った。

 

 イングランド大会のメンバーで“ブライトンの奇跡”にも貢献した真壁伸弥から以前、こんな話を聞いた。「本音を言えば、最初は(ロックのレギュラーの)5番のジャージを着たかった。でもエディー(・ジョーンズ前HC)さんがHCになってから18番、19番にも誇りを持てるようになった。力が落ちるからリザーブなのではなく、後半の武器として考えてくれている。そのことが励みになりました」

 

 リーチ・マイケル主将の言う「ワンチーム」とは、国籍や出身地の違いを乗り越えての結束にとどまらない。メンバーそれぞれに居場所と役割があり、必ず出番がやってくる。そんなチームのことをいうのだろう。もはや「正選手」は死語である。

 

<この原稿は19年10月9日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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