7日、ヤマザキナビスコカップ2014の決勝(13時5分キックオフ)を翌日に控え、ガンバ大阪とサンフレッチェ広島が会場の埼玉スタジアムで前日練習ならびに会見を行った。G大阪は7年ぶり2度目、広島は初の戴冠を目指す。またG大阪はリーグで2位につけ、天皇杯は準決勝に進出。ナビスコ杯は3冠達成への第一関門となる。一方で広島はリーグ優勝の可能性が消え、天皇杯も4回戦で敗退した。明日は今季唯一のタイトル獲得がかかっている。前日会見にはG大阪の長谷川健太監督とキャプテン・MF遠藤保仁、広島は森保一監督とキャプテン・MF青山敏弘が登壇し、それぞれ決勝にかける意気込みを語った。
(写真:左から森保監督、青山、遠藤、長谷川監督)
「試合が終わった時には、我々が勝っていることを思って力を出し切る」
 森保監督が力強くこう語れば、長谷川監督も「スタジアムの中央で、キャプテンの遠藤がカップを掲げている姿を練習しながらイメージした」と勝利宣言で返した。実はこの2人、いわゆる“ドーハの悲劇”をともに日本代表メンバーとして経験した旧知の間柄。今季はここまで3度対戦(戦績はG大阪が2勝1分け)しており、お互いの手の内はわかっている。互いのストロングポイントをどう生かし、また封じるか。両指揮官がどのような采配で優勝を手繰り寄せるかに注目だ。

 G大阪、広島はともに日本屈指の司令塔とストライカーを擁している。G大阪の司令塔は言うまでもなく遠藤であり、広島は青山。G大阪のエースストライカーはFW宇佐美貴史、広島はFW佐藤寿人である。

 遠藤は直前にブラジルW杯後初となる代表に選出されるなど、好調を維持している。長短織り交ぜた高い精度を誇るパスでチャンスメイクし、時にはミドルシュートでゴールを脅かす。中でも日本屈指のプレースキックはG大阪の大きな武器だ。CKやゴールに近い位置でのFKの機会を得れば、チームが得点を奪う確率は大きく上がる。そんなG大阪のキーマンについて、青山は「僕たちが考えている先をいく選手。(広島の)思っていることは筒抜けだと思う」と警戒を強めた。G大阪としては他の選手が連動して遠藤からのパスを呼び込み、チャンスをつくりたいところだ。

 そこで期待されるのが宇佐美だ。今年のナビスコ杯ニューヒーロー賞に輝いた22歳は、リーグ戦でチーム最多タイの8ゴールをマーク。得意のドリブルのキレが増している。サイドでボールを受けてからゴール方向へ突破する推進力は、疲れがたまる試合後半に相手の脅威となるだろう。また今季はアシストで貢献する機会も増加し、万能型ストライカーとしてチームに欠かせない存在となっている。広島の最終ラインには水本裕貴、千葉和彦、塩谷司という日本代表経験のあるDFが揃っているだけに、宇佐美も簡単には突破させてもらえないだろう。宇佐美は「ファイナルは今まで以上に貢献できる試合にしたい」と意気込んだ。チームにも勢いをもたらす意味でも、エースの奮起は欠かせない。

 対する広島のゲームスピードをコントロールしているのは青山だ。ともにブラジルW杯のメンバーに選ばれた遠藤が「1本のパスで状況を変えられる選手」と評したように、青山のパスには一撃必殺という言葉がふさわしい。たとえば味方が奪ったボールを自陣で譲り受けると、ロングボールで一気に相手最終ラインの裏を突く。ゴールに向かうパスを駆使することで、攻撃のスイッチを入れるのだ。また青山が貢献するのは攻撃面だけではない。絶妙なポジショニングでセカンドボールを拾ったり、球際での激しい競り合いもいとわない。青山は広島のまさに攻守における要である。キャプテンとして仲間を鼓舞し、広島をナビスコ杯初制覇へ導けるか。
(写真:青山はカップを前にして「気持ちが高ぶらないようにするのは無理」と優勝への意欲を述べた)

 青山の前に広島のキャプテンを務めていたのが佐藤だ。佐藤の真骨頂である相手DFラインの裏をとる動きは職人業と言っても過言ではないだろう。10月26日のJ1第30節(清水戦)では今季10ゴール目を挙げ、前人未到の11年連続二桁得点を達成。決勝へ向けて調子は上向きで、本人も「コンディションは埼玉スタジアムのピッチと同じくらい良い」と笑顔をのぞかせた。今回、佐藤には大会制覇とともに決勝で達成が期待される記録がある。ナビスコ杯の通算最多得点だ。現在、大会通算得点は26ゴールで中山雅史(元磐田、札幌)、ジュニーニョ(元川崎F、鹿島)、佐藤が最多タイで並んでいる。佐藤は「最多得点というかたちで自分の名前だけが一番上に来るようにしたい」と記録更新への思いを明かしたが、「ただ勝利につながるゴールじゃないと意味がない」とも語った。ストライカーはチームを勝利に導くためのゴールを狙い続ける。

 森保監督、長谷川監督ともに勝利するためには「自分たちの力を出し切れるかどうか」と述べた。でき得る限りのベストを尽くし、勝利の女神を振り向かせるのは果たしてどちらか。

【バニシングスプレーをトライアル導入 ブラジルW杯で脚光】

 今年のナビスコ杯決勝では、新テクノロジーが試験的に導入される。それがバニシング・スプレーだ。FKなどの際に、ボールを置く位置、壁の並ぶ位置をスプレーで明示する。今夏のブラジルW杯で目にした人も多いだろう。キッカーがボールの位置をずらしたり、ボールが蹴られる前に壁に入った相手選手が前に出たりすることを防ぎ、試合進行をスムーズにするのが狙いだ。スプレーで記したマークは1分以内に消失し、その後の試合に影響はない。
(写真:遠藤がバニシング・スプレーに関わる機会が何度訪れるのか)

 G大阪のプレースキッカーである遠藤は、W杯でバニシング・スプレーの効果を経験した。そのことを踏まえて、遠藤はある持論を展開した。
「(スプレーで記す)ラインはボールの前ではなく、横に引いてほしい。そのほうがキッカーにとってはいいと思う」

 ラインを横に引くことの根拠について詳しくは明かさなかったが、遠藤は「試合前などに(決勝を担当する)レフェリーとコミュニケーションをとって、キッカーが蹴りやすいようにしていただけたらうれしい」と“改善”を要望することを示唆した。

 Jリーグは今回のトライアルの結果を受けて、バニシング・スプレーの今後の導入を検討する。