デストロイヤー追悼大会に出場
「今回のバトルロイヤル戦は、しっかりと対策を練っていこう」
今年2月に続き、バトルロイヤルでの試合出場のオファーをいただいた。
8カ月前にこの世を去ったデストロイヤー氏の追悼大会が、11月15日に東京・大田区総合体育館で開催されたのだった。大会には、藤波辰爾選手や武藤敬司選手、獣神サンダー・ライガー選手、藤原喜明選手、越中詩郎選手などレジェンドレスラーを中心に総勢60名を超える選手が集結した。
選手だけでなく、和田アキ子さんや徳光和夫さん、せんだみつおさんなどデストロイヤー氏ゆかりの著名人も『ザ・デストロイヤー メモリアル・ナイト』のセレモニーに参加するため会場にお越しになった。
このような豪華な大会に出場するだけにショッパイところは見せられない。
バトルロイヤルでの出場であってもコンディションの良いところを魅せたいところだ。
「練習だけは、きっちりやって仕上げて出よう」
夏から秋にかけて「クワレス」や「森のプロレス」で大忙しだったこともあり、道場に通える日数は限られていたが、時間を見つけては自重トレや筋トレを集中して行なった。
「体調はバッチリ! あとはプロレス頭を働かせて、リングで輝こう」
バトルロイヤルは20人もの選手が同時に闘うだけに体の小さな僕は目立たないはずだ。下手すれば「試合、出てた?」などと言われかねない。
充分な対策をしておかないと完全に埋もれてしまう。
そこで僕は、コスチュームの見直しを図った。細い体をカバーする意味でも真っ赤なラッシュガード(写真)は効果的だと判断したのだ。おそらく会場の奥からでも目につきやすいだろう。
70kgと出場者の中で最軽量なだけに工夫していかないと存在を消されてしまう。
「キングダム時代を思い出し、オープンフィンガーのグローブを装着するのもありかな」
マット界を見渡してみると今の時代ではグローブを着けて試合しているレスラーをほとんど見かけない。強いて言えば、ケンドー・カシン選手ぐらいだろうか。幸い今大会には出場しないので、グローブ被りの心配はない。
よし、このスタイルでいこう! 当然ながらグローブを着けるなら、試合でパンチを使わないとおかしい。プロレスのルールでは顔面へのパンチは反則となるが、ボディへの攻撃は問題ないのだ。
ボクシングの練習は定期的に行なっているので、腰の入った本格的なパンチを繰り出せる自信はある。一番にリングインし、シャドーボクシングの演出をやっても面白いだろう。
王道マットでやるからこそ、異色で目立つのだ。
格闘技色が僕のアイデンティティなのだから、それを生かすべきだ。
自己プロデュースをしないと何の印象も残らずに終わってしまう。
僕がここまで気合を入れているのには訳がある。
今回の「デストロイヤー杯」の優勝者には、なんとデストロイヤー本人が試合で使用したマスクが贈呈されるのだ。いつも以上にやる気になっているのはこのためである。僕は隠れマスクマニアなのだ。
「どの選手を狙っていくの?」
当日会場で観戦予定の息子が僕に質問してきた。
「デストロイヤー杯」だけにデストロイヤー氏と縁が深い選手をターゲットにするべきだろう。
出場メンバーをチェックしていく中で、百田光雄選手とグレート小鹿選手に目が止まった。
力道山のご子息である百田選手は、今年2月の「ジャイアント馬場追善興行」でのバトルロイヤルでも優勝している。これは2連覇のニオイがプンプンする。
「狙うは、力道山2世かな」
ここで大先輩方の年齢を確認してみて驚いた!
百田選手は71歳、小鹿選手は現役最高齢の77歳なのであった。
お2人とも今現在も選手として立派にリングに上がって試合をしているのだから、土下座をしたくなる。昭和のレスラーは鉄人だ。
「いくらなんでも70オーバーのご高齢者にパンチをぶち込むのは正直、気が引けてしまうなぁ」
息子の前だとつい本音が出てしまう。
さて、結果発表といきたい。残念ながら僕は、優勝どころか2番目の退場者という悲しい結末となってしまった。やはりプロレスは難しい。
多くの選手が退場し、最後に残った数名は、百田親子(息子は力選手)と井上雅央選手だった。
僕の狙いどころは大筋間違ってはいなかったのだが、優勝したのは、予想外の井上選手だった。
後で調べてみて分かったことだが、彼はデストロイヤー氏の引退試合の相手を務めた選手だったのである。最後に「足4の字固め」をやられた選手ということになる。
なるほど! プロレスの神様の演出はさすがである。きっと天国のデストロイヤー氏も喜んでおられるだろう。
今、ふと思い出したのだが、僕は素顔のデストロイヤー氏をお見かけしたことがある。
実は……26年前にアメリカで行われた「カリフラワーアレイクラブ」というレジェンドレスラーのパーティーに出席した時に一度だけお会いしたことがあるのだ。
その時、マスクを被っていなかったので、デストロイヤー氏とは分からず、同席していた安生洋二選手にどなたか聞いていたところ、「ワタシは、デストロイヤーです」と日本語で話しかけられたのだ。これには本当に驚いた。僕たちの会話を理解しているとは夢にも思わなかっただけにその返答に我が耳を疑った。それにしてもビッグネームとは思えないほど気さくな方であった。
もう叶わないが、元祖「足4の字固め」を一度は体感してみたかったと今更ながら残念に思う。
白覆面の魔王・デストロイヤー氏のご冥福を心よりお祈りします。
(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)