「シーズンの最終戦で全ての運命が決まる!」

 

 

 

 

 

 

 

 10月に入り、最終盤戦に突入した2019プレナスなでしこリーグ2部。10月末には、優勝と1部昇格の権利を手にするクラブが決まる。

 

 第14節終了時点、愛媛FCレディースはリーグ戦において首位。このまま優勝なら1部自動昇格だ。2位だと厳しい戦いが予想される「入れ替え戦」に臨まなくてはならない。だからこそ、タイトル奪取に最も近づくことができた今季のチャンスを是が非でも逃したくないのだ。

 

 10月6日(日)に行われた第15節では、下位チームの大和シルフィードと対戦。ホームゲームということもあり、勝利を期待していたがスコアレスのまま、手痛い引き分けに終わった。

 

 前節のリーグ戦(アウェイ戦)と茨城国体での連戦に加え、長距離移動の疲労が選手たちの動きにも表れていたように感じた試合であった。

 

 翌週、10月12日(土)に行われた第16節では、静岡産業大学磐田ボニータと対戦。後半21分にFW上野真実選手が挙げた先制ゴールを守り抜き、最終スコア1-0で勝利した。愛媛FCレディースが首位の座を守ったまま、リーグ戦残り2試合に臨むこととなった。

 

 10月19日(土)、アウェイで行われた第17節、ニッパツ横浜FCシーガルズと対戦。前半立ち上がりにMF山口千尋選手が先制ゴールを決めて試合を優位に進める愛媛。このまま勝利すれば優勝が確定となるはずだったが、結果を意識し過ぎて硬くなってしまったのか……。終盤、相手に逆転を許し、1-2で敗れた。

 

 この結果、首位の愛媛に対し、2位と3位チームが勝ち点3差(1勝分)に迫るという大混戦となってしまった。

 

 10月26日(土)、ついに運命を決する最終戦(第18節)の当日を迎えた。最終節の対戦チームは、愛媛を勝ち点3差で追う難敵のオルカ鴨川FCだった。

 

 この試合、愛媛は勝利もしくは引き分けで、優勝と、なでしこリーグ1部昇格が決定する。本当に重要な一戦となった。

 

 会場は、愛媛のホーム、愛媛県総合運動公園球技場。運命の一戦を見守るため、今季最多の1200名を超える観客やマスコミ各社が詰め掛け、立ち見客が出る程の大変な賑わいとなった。

 

 午前中、運動公園の上空を覆っていた雲はいつしか過ぎ去り、眩しい程の日差しが差し込む中、時計は午後1時を廻り、オルカ鴨川FCのキックオフで試合がスタートした。

 

 序盤から両サイドのスペースを利用し、積極的に攻め入る愛媛。幾度となく決定機を創り出すが得点には至らない。それでもボール保持率では相手を上回っているように感じた。また相手に攻め込まれる場面では愛媛のDF陣を中心に全員で身体を張り、相手のボールを止めに行くなど、気持ちのこもったプレーが随所で見られ、素晴らしい試合を展開していた。

 

 一進一退の好ゲームはスコアレスのまま、後半に突入。後半もアグレッシブな攻撃姿勢を崩さない愛媛。すると歓喜の瞬間が訪れる――。

 

 後半13分、敵陣中央を駆け上がる上野選手。後方からのパスを足元に収め、ペナルティアーク手前までドリブルで持ち込み、左サイドでフリーの山口選手にボールを送る。山口選手はパスを受けペナルティーエリア深くまでドリブルで切れ込み、ゴール前にグラウンダーのクロスを供給。このボールを捉えたのは、後方から走り込んで来たFW大矢歩選手。ダイレクトで右足を振り抜くと、ボールは相手DFの脇を擦り抜け、見事ゴールネットに突き刺さった!

 

 大歓声に包まれるスタンド! 両手を広げ、チームメイトと抱き合い喜びを分かち合う大矢選手! ゴール直後ということで、場内アナウンスとサポーターの掛け合いで、大矢選手を称えたかったのだが、あまりにも大きな歓声にアナウンスが掻き消され、コール&レスポンスができなかった。それほど会場が興奮の坩堝と化していたのである。

 

 若干、間は空いたが「スウィーギン スウィンギン愛媛 フォーエヴァー!~」。サポーターによる歓喜の大合唱で大矢選手のゴールを称えた!

 

 見事、先制し、試合を優位に進めたい愛媛だったが、オルカ鴨川FCも黙ってはいない。逆転して勝利すれば優勝の可能性があるからだ。また、鴨川のホームタウン(千葉県鴨川市)では、今季の台風災害により被災された方もおり、地域の方々に元気と勇気を届けようとオルカ鴨川FCイレブンも必死の反撃を挑んでくる。

 

 愛媛の得点から5分後だった。ハーフウェイライン付近でパスをカットされ、相手のカウンターをくらう。直後、愛媛ゴール前で混戦となり、こぼれ球を相手選手に押し込まれ、同点に追いつかれてしまった。

 

 その後も、激しいプレスで愛媛の選手たちを追い込む鴨川の攻撃陣。愛媛も気持ちでは負けてはいない。長年、苦労を重ね、ようやく掴みかけている昇格のチャンスを逃す訳にはいかないのである。意地と意地のぶつかり合いがピッチ上で繰り広げられる。

 

 試合も終盤に入り、押し込まれピンチに陥るシーンも見られたがGK吉原南美選手やDF陣が踏ん張り、何とかしのぐ。引き分けでも優勝の愛媛は、無理に得点を奪いにはいかず、敵陣でボールをキープし続け、時計の針を進める。

 

 その後、とてつもなく長く感じるアディショナルタイムを消化し、ついに主審が試合終了を告げる笛を響かせた。

 

 再び大歓声と歓喜の輪に包まれるスタンド! 選手たちは抱き合い、喜びを爆発させる!

 

「カンピオーネ! カンピオーネ! オレ・オレ・オーレー!」

 

 リーグ優勝と1部昇格を祝う、サポーターやファンによる大合唱が運動公園に木霊する! 最終スコアは1-1の引き分け。勝ち点1を積み上げた愛媛が2019プレナスなでしこリーグ2部の頂点に立ったのである。。

 

 そして、チーム創設から10年目、ついに悲願の「なでしこリーグ1部昇格」を成し遂げた。試合後の表彰式では怪我のため、シーズン後期のリーグ戦には出場できなかったキャプテンの阿久根真奈選手が優勝カップを頭上高く掲げ、チームメイトたちと喜びを分かち合う姿が、とても感動的あった。

 

 今季、11勝4敗3引き分け(勝ち点36)という好成績を残した愛媛FCレディースだが、ここに至るまで、容易な道のりではなかった。実はリーグ戦で首位の座を守りながら、主力メンバーの怪我が相次ぎ、チーム構成が安定せず、とても苦しいシーズンだった。試合後、数名の選手と話しをしたが「厳しいシーズンだった。戦力が揃わない中、最後まで戦い切れたのは奇跡のように思う」と話す選手もいる程だった。

 

 そんな苦しい台所事情においても、上手くやり繰りして、チームを纏めた赤井秀一監督の仕事も素晴らしかった。愛媛FC(トップチーム)の選手として活躍し、指導者としてクラブに恩返しをしてくれている赤井監督。彼には本当に感謝したい。そんな監督が照れながらも女子の選手たちから胴上げされている姿は微笑ましく、また嬉しく感じられた。

 

 会場の外では、地元の新聞社から愛媛FCの優勝&昇格を伝える「号外」が早々と配られるなど、試合後もスタンド周辺はお祭り騒ぎのような盛り上がりを見せていた。

 

 チーム発足からこれまで、沢山の方々に支えられてきた愛媛FCレディース。恵まれた環境とは言えない中、その歴史がスタートし、不自由を感じた選手やスタッフも多くいたと思う。宮城県から知らない土地(愛媛)に来て、キャプテンとしてチームを牽引し、プレーヤーとしても辛抱強く頑張ってくれた中田麻衣子選手を始め、引退や怪我など、様々な理由で志し半ばで止むを得ずチームを去る選手も多く見てきた。

 

 初代監督の江後賢一さんも手探りの中、苦労されていたと思う。その後、引き継いでくれた川井健太さんも目標に到達することができず心残りがあったのでは、と感じる。

 

 当初、支えてくれた支援者やスポンサー様、サポーターも多くいらっしゃるが、事情があり、支援を継続することができなかった方もおられる。そうした礎を築いてくれた人々が、愛媛FCレディースには多く居たことを忘れてはならない。試合後の挨拶で阿久根キャプテンも、話していたが、これまで関わってくれた人たちへの感謝の気持ちは、持ち続けてもらいたい。

 

「愛媛FCレディースの選手・スタッフの皆さん、リーグ優勝と1部昇格、本当におめでとうございます。そして、私たちサポーターの夢を叶えてくれてありがとう!」

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。

 


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