“怪物”がもがき苦しんでいる。北海道日本ハムのゴールデンルーキー中田翔のバットから快音が聞こえてこない。開幕スタメンどころか、2軍落ちのピンチだ。
 現役時代、“怪童”の異名をとり、高卒1年目で新人王を獲得した中西太氏に、当HP編集長の二宮清純が、このほど講談社の新刊(今秋発売予定)向けにインタビュー取材を行った。その中で話題になった中田に関する中西氏の分析を紹介しよう。“怪童”は“怪物”をどう見ているのか――。
(写真:西鉄で5度の本塁打王に輝いた強打者が熱く打撃論を語ってくれた)


二宮: 練習試合で対戦した楽天・野村克也監督が、中田について「重なるのは中西太さん」と、その素質を認めていました。中西さんからみての印象は?
中西: 体は素晴らしい。背丈が182センチで、体重が約100キロ。あれだけの体があれば、手も長いからリーチも利く。遠心力を使ってガーンとボールを飛ばすことができる。ビックリしたのはライナーでどこへでも飛ばせるということ。ケタ違いのパワーですよ。

二宮: 確かに当たれば外国人助っ人並みの飛距離です。ただ、現状は外の変化球に泳がされ、自分のバッティングを見失っているように見えますね。
中西: 外のスライダーに完全に振らされている。でも、まだ18歳であれくらいのフルスイングができれば合格。問題は、そのパワーをムダ遣いせずに、下半身と上半身をうまく連動させてバッティングができるか。単に思い切り振り回すのと、力をめいっぱい活用して打つのとは違う。

二宮: 見た目ではパワーだけというイメージがありますが、結果が出ないとフォームを変えてみたり、工夫しようという意思は伝わってくる。逆に言えばフォームがまだ確立されていないということでしょう。
中西: デブだといわれているけど、結構器用ですよ。足を使って三塁打にもできるし、ホームへのスライディングをみても身のこなしがいい。
 ただ、器用すぎて誘いに乗りやすいバッターかもしれない。打席の中で動かされてしまう。逆にイチローなんかは不器用で体が固いから中心がずれない。
 僕も体が柔軟なほうだったから、1年目は誘いに乗りやすかった。スローボールがくるとバットを3塁側に放り投げていた(笑)。それくらい泳がされていた。軸がぶれてしまえばピッチャーの勝ち。データ分析も発達しているから攻略は簡単です。
 見ていて気になるのはアウトコースの高目を見逃している点。あのコースは一番、バッターから見やすいし、手を出しやすいところなんです。そこを見逃すということは余計なことを考えすぎている。中田について「フォームを変えるべき」とか「無理にいじらないほうがいい」とか言う人間がいますが、形は今、あれこれ言わなくていい。

 必要なのはボールをとらえる技術

二宮: では、中田が真の強打者になるためのポイントは何でしょう。
中西: 必要なのはボールをとらえる技術、どんな球でも幅広くバットを出せる技術です。僕はボールをとらえて広角に打つ基本ができていたから、1年目から結果を残せたし、2年目から構えを変えて長打力も増した。今は当時の稲尾君のように、いい球をコントロールよく投げ込めるピッチャーは少なくなってきた。最近の投手は変化球も多彩で、どこにボールがくるかわからないから、なおさらです。
 そのための原理原則は下半身の強化。両太ももの内転筋をしっかり使って、いかに力をためてボールをとらえられるか。バットに当たりさえすれば、ボールはどこへでも飛んでいきます。ここを鍛えるのは今しかない。
 これからの3年間が勝負。最初をおろそかにすると大成しません。日々、予習、復習を繰り返して体に基本を覚えこませる。守備も下半身が安定しなければボールは捕れない。つまりプロとしての土台をつくることが大切なんです。相撲でいえば四股、てっぽうをやらないといけない。

二宮: 中西さんは若松勉さんや掛布雅之さんなど、多くの好打者を育てました。もし、中西さんが中田の臨時コーチを依頼されたら、どんな指導をしますか。
中西: 土台づくりに関しては、いろんな引き出しをもっていますが。たとえばティーバッティングで緩い球から外も中もしっかり幅広く打ち返す練習をします。緩いボールは反発力がありません。ボールをひきつけてとらえるためには内側にエネルギーをためて爆発させなくてはいけない。下半身がブレて軸がずれたら強く打ち返せませんよ。しっかり軸足の親指でブレーキをかけて我慢して、とらえる瞬間に蹴り上げてポンと振り切るようにしないと。

二宮: 今、中田にアドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけますか?
中西: 「内角球を怖がるな」。その一点だけでいい。内角球はほとんどがボール球。それを打つか避けるか、ジャッジメントができなくてはいけない。そのためには単にティーバッティングやフリーバッティングで打つ練習をするだけじゃなく、ティーのときに時々、顔めがけてボールを放ってもらって、それにパッと反応するという作業も必要でしょう。

二宮: 今までのお話を伺っていると、最初から1軍で使うより、2軍でじっくり育てたほうがいいのではないでしょうか。このままだと、結果を求めて小さくまとまってしまう恐れがあります。
中西: 2軍でもいいけど、それだけの作業ができるかどうか。毎日、基本を練習させて、試合で自信をもたせる。これができなければ2軍でも1軍でも育ちませんよ。
 その点、日本ハムの首脳陣は梨田(昌孝監督)や真喜志(康永コーチ)と近鉄時代に僕が教えた連中がいるから分かっているはず。2軍打撃コーチの荒井(幸雄)にしても、若松の後を継いでヤクルトのレギュラーを取った男でボールのとらえ方がうまかった。練習の仕方もよく知っていると思う。だから、中田は監督、コーチのいうことを信じて練習してほしい。
 いくらピッチャーの失投とはいえ、ホームランなんて何本も打てるもんじゃない。資質はある。長所はある。それをいかに磨くか。ムダを省くか。鉄は熱いうちに打てということですよ。