27日、八百長に関与した疑いでスペイン検察庁から告発されたハビエル・アギーレ日本代表監督がJFAハウス(東京都文京区)で記者会見を開いた。15日に告発されてから、アギーレ監督がメディアの前に姿を現したのは初。指揮官は会見で「39年間、プロサッカーに関わってきたが、汚点は全くない」と自身の潔白を強調した。賄賂の受け取りの有無など八百長を否定する根拠については「スペインの司法当局で発言する」と語り、具体的な内容は明言しなかった。
 八百長の告発対象となった試合は2011年5月21日のリーガ・エスパニョーラ1部、最終節のサラゴサ対レバンテ戦だ。アギーレ監督が指揮を執っていたサラゴサは2−1で勝利し、1部残留を決めた。だが、スペイン検察庁によると試合前にアギーレ監督やサラゴサの選手たちの口座に、クラブから合計96万5000ユーロ(約1億4000万円)が振りこまれ、その後、ほぼ同額がそれぞれの口座から引き出されていたという。検察当局はこれらの行為からサラゴサがレバンテに賄賂を支払ったとみており、15日に両クラブの選手、そしてアギーレ監督やサラゴサの幹部ら41人をバレンシアの裁判所に告発した。

「本日までみなさんの前で発言することがなかったのは、正式なモノが何もなかったからだ。この度、(告発の)訴状が提出されたということで、私の意見を申し上げたい」
 こう語り始めたアギーレ監督は非常に落ち着いた様子だった。指揮官は契約している弁護士から「本格的な捜査は1月から始まる」と聞かされたという。捜査が1月から始まれば、アジアカップ(オーストラリア)への影響も懸念されるが、アギーレ監督は「弁護士からの話によると仕事には影響しないところで呼んでもらえるらしい」と出頭要請に不安はないようだ。

 また捜査期間の長さ、捜査後に裁判へ発展するかは「まだ誰にもわからない」と述べた。仮に裁判が始まり、判決までに時間がかかれば、指揮官はその間も嫌疑のかかった状況が続くことになる。日本サッカー協会(JFA)の原博実専務理事は「あらゆる状況に対応できるように準備していく」と語っており、判決を待たずにアギーレ監督が代表監督の座から降りる可能性も示唆している。だが、アギーレ監督自身は「39年間、私が辞任したことは1度もない。私はプロフェッショナルで契約を守る」とロシアW杯まで指揮を執り続けることを強調した。

 アギーレ監督は八百長疑惑について海外と日本のメディアの“温度差”についても言及した。
「まだ日本で私のことがあまり知られていないから、このような会見をもって質問を受けることになったが、私自身は落ち着いている。(現在の状況が)大騒動だとは思っていない。スペイン、メキシコ、米国ではスキャンダルにはなっていないのに、日本でスキャンダルになっている。私にとっては非常にクリアな状況だ。3シーズン前のとある1試合が調査されていて、その試合に関わっていた人々が呼ばれて証言するというだけだ。時を待てば、事実がすべて明るみに出てくるだろう。それをお待ちいただきたい」

「判決が出るまで謹慎というかたちで身を引く考えはあるか?」との質問には、語気を強めてこう反論した。
「(八百長が疑われている)試合に関わった選手たちは今でも試合に出ているし、このような質問で責められていない。サラゴサの幹部も今まで通り、仕事を続けている。
その試合のレフリーも今でも笛を吹いている。なぜ彼らと同じように私も仕事を続けることができないのか。有罪を証明するまでは、何人たりも無罪だと思うので、それまで仕事をする権利はある。推定無罪というのは法によって定められている。有罪が証明されるまでは無罪だ」
(写真:急な開催だったにも関わらず、多くの報道陣が会見場に詰めかけた)

 29日からアジア杯に向けた合宿が始まる。合宿初日に大仁邦彌会長が選手たちに状況を説明する方針については「それは会長の持っている権利だ。選手にとっても説明してもらったほうがいいだろう」と理解を示した。
「アジア杯を優勝するための仕事以外のことに1分も割こうとは思っていない。本日の会見が終わってから、100パーセント、アジア杯に向けての状態になる」
 果たして、周囲の喧騒が大きくなる中で指揮官は冷静にチームづくりを進められるのか。アギーレ監督の“プロフェッショナリズム”に注目が集まる。

(文・写真/鈴木友多)