3日に放送されたNHK朝のニュース番組「おはよう日本」で紹介された映像は衝撃的だった。カメラはヨルダン南部にある世界遺産ペトラ遺跡を土石流が襲う様子をとらえていた。昨年11月に発生した自然災害で、以前にも目にした映像だが、久しぶりに見ても、一瞬で全てを流し去る鉄砲水には慄然とした。

 

 言うまでもなく真犯人は気候変動による温暖化だが、世界各地で被害が続出しても、温室効果ガス削減に向けた動きは遅々として進んでいないように映る。米トランプ政権は先月、温暖化対策の国際ルール「パリ協定」からの離脱を国連に通告したばかりだ。

 

 近年、欧米では天候デリバティブを利用する企業が増えている。ひらたく言えば、気温、降雨量、降雪量、霧、風速、台風などの気象リスクを取引の対象とする金融派生商品のことだ。異常気象による自然災害が多発する中、欧米では天候デリバティブを使ってリスクを回避する動きが加速している。契約先は小売、飲食、ゴルフ場、テーマパーク、アパレル、物流、運輸、建設など多岐に渡る。

 

 天候デリバティブに関するビジネスモデルは、1997年に米エンロン社が開発したものが最初と言われている。事業会社は 99年にシカゴ・マーカンタイル取引所にて上場された。日本でも同年に取り扱いが始まった。

 

 IOCが天候デリバティブに関する契約を、どこかの社と結んでいるのか定かではないが、東京から札幌へのマラソン・競歩会場変更の顛末は、今振り返っても、やはりお粗末だった。土壇場での危機回避と言えば聞こえはいいが、東京の猛暑対策の進捗状況を踏まえずしての強権発動には、しこりが残った。

 

 IOCは近年、事あるごとに「環境保全」に基づく「持続可能性」の重要性を宣教師よろしく説いて回っている。だが16年大会の招致に向け、東京の組織委員会が「環境五輪」をアピールした際、「ここ(IOC)は国連ではない」と冷ややかに言い切ったのは、どこの誰だったのか。

 

 11月に行われた4者協議の席で小池百合子都知事は「五輪開催の前提条件となっている7~8月の実施は、北半球のどの都市でも過酷な条件になると言わざるを得ない」と苦言を呈した。五輪の主催者たるIOCから、なるほどと思えるような解決策が提示されないのは寂しい限りである。

 

<この原稿は19年12月4日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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