「ジャッカル」「にわかファン」「笑わない男」「ONE TEAM(ワンチーム)」……。

 

 

 今年の流行語大賞の候補にはラグビーに関する言葉が数多くノミネートされた。

 

 9月から11月にかけてアジアで初めて開催されたラグビーW杯日本大会は、台風19号の影響で3試合(ニュージーランド対イタリア、イングランド対フランス、ナミビア対カナダ)が中止を余儀なくされたものの、ジャパンが史上初めてベスト8に進出を果たすという快挙もあり、成功裡に終わった。

 

 チケットは販売が可能な99.3%にあたる約184万枚が売れた。事実上のソールドアウトだと言っていいだろう。

 

 W杯が終わっても、ジャパンの選手たちは、メディアから引っ張りだこだ。スポーツ番組のみならずバラエティー番組でも彼らの姿をよく見かける。特番の多くなる年末にかけ、彼らの出番はさらに増えるはずだ。

 

 今回紹介するセンター中村亮土はジャパンが戦った全5試合(ロシア戦、アイルランド戦、サモア戦、スコットランド戦、南アフリカ戦)でスタメン起用された。31人のメンバー中、全5試合にスタメン出場を果たしたのは彼を含め9人だ。

 

 現代のラグビーは、ベンチ入りも含め23人全員で戦う時代である。その意味で、スタメン起用の重みは、以前ほどではない。とはいえW杯におけるジャパンの地位はアウトサイダーである。前半でペースを握らなければ、その後の展開が苦しくなる。全5試合でのスタメン起用はジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)の中村に対する期待の大きさの表れだったと言えよう

 

 結論を述べれば、中村は指揮官の期待に見事に応えた。攻守にハイパフォーマンスを披露し続けた。

 

 格下の相手ながら、先制トライを奪われるなど、チーム全体が緊張で金縛りにあったように見えた初戦のロシア戦。前半38分、タックルを受けながら右手一本で大外のウイング松島幸太朗にパスを送り、逆転トライを演出したのは中村だった。

 

 世界中に衝撃を与えたアイルランド戦でも、中村は逆転トライを演出した。後半18分、敵陣の深い位置、スクラムハーフ田中史朗からのボールを、“飛ばしパス”でセンターのラファエレ・ティモシーに送った。それがウイング福岡堅樹につながり、左サイドに飛び込んだ。相手がマークする松島を敢えて飛ばしたところに、成長のあとが窺えた。

 

 中村は語ったものだ。

「ビッグプレーは狙っていない。僕の場合、足もさして速くないし、ポテンシャルがズバ抜けているわけでもない。いかに他の選手と連携できるか。チームのパイプ役を心がけています」

 

 プロ契約の選手が増えた中、中村はサントリーの社員でもある。

「社員選手とはいえプロフェッショナルな成果を見せ、プロフェッショナルな行動をとらないといけない。会社とスポーツの繋ぎ役が社員選手。サントリーの素晴らしさを、ラグビーを通して伝えたいんです」

 

 ラグビーと社業に邁進する28歳。やってみなはれ、の心意気が伝わってくる。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2019年12月8日号に掲載されたものです>

 


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