10日、第93回全国高校サッカー選手権大会準決勝が埼玉スタジアムで行われ、第1試合は星稜(石川)が日大藤沢(神奈川)を3−0で下した。第2試合は前橋育英(群馬)が流経大柏(千葉)と闘い、90分を終えて1−1。続くPK戦を前橋育英が5−4で制し、決勝カードは星稜―前橋育英に決定した。星稜は2年連続2度目、前橋育英は初の決勝進出。決勝は12日、埼玉スタジアムで13:35にキックオフされる。
 初先発の杉原、貴重な追加点で快勝貢献(埼玉)
星稜(石川) 3−0 日大藤沢(神奈川)
【得点】
[星] オウンゴール(22分)、杉原啓太(35分)、太田賢生(45分+1)

 前半で試合を決めた。昨年、準優勝に終わった星稜は、今大会前に河崎護監督が交通事故に遭い、入院を余儀なくされた。しかし、高校屈指の名将が育てた選手たちは、困難に屈することなく、決勝への切符を掴み取った。

 星稜は得意のサイド攻撃からリズムに乗った。前半6分、MF藤島樹騎也(3年)が左サイドを抜け出してクロス。これをFW森山泰希(3年)が頭で合わせたものの、GKの正面を突いた。19分には、藤島が中央に切れ込んでからシュートを狙ったが、DFのブロックに阻まれた。得点には至らないものの、星稜が主導権を握ったことは明らかだった。

 すると22分、星稜に先制点が生まれた。藤島がPA内に進入したところで相手に倒されてPKを獲得。MF平田健人(3年)のシュートはGKの好守に防がれたものの、PA内右サイドこぼれたボールを拾ったMF前川優太(3年)の上げたクロスが相手のオウンゴールを誘った。2年連続決勝へ、星稜が幸運なかたちでリードを奪うことに成功した。

 35分には追加点を奪った。決めたのはMF杉原啓太(3年)だ。左サイドからのクロスが相手DFに阻まれてこぼれたボールを蹴り込んだ。杉原はこの試合が今大会初先発だった。「予選から全然出られてなかったので、ピッチに立ったときは自分のサッカーを表現しようと思っていた」との思いで臨み、見事に首脳陣の期待に応えた。

 星稜の勢いは止まらない。に前半アディショナルタイム、FW大田賢生(3年)の打ったシュートがPA内で相手の手に当たり、この試合2度目のPKを得た。これを大田自身がゴール左に沈め、3−0と大量リードで試合を折り返した。

 後半は前に出てきた日大藤沢に押し込まれる展開となった。だが、主将のDF鈴木大誠(3年)、DF高橋佳大(3年)を中心に堅い守りで相手の攻撃を跳ね返していった。34分、MF佐藤拓(2年)にミドルシュートを打たれたが、ゴール右に飛んだシュートをGK坂口璃久(2年)がファインセーブ。結局、星稜は最後まで集中力を切らさず、快勝を収めた。

「うまくいったところもあれば、うまくいかなかったところもあるが、得点を取れたことが大きかった。守備面でもゴール前で体で止めているシーンもあったし、良かったと思う」
 河崎監督に代わってチームを預かる木原力斗監督代行は、このように試合を振り返った。攻守両面での安定感は日大藤沢を大きく上回っていた。さらに、消極的にならなかったことも快勝につながったように映る。星稜は先制点を奪えば追加点、2点目を取った後は3点目と、常にゴールを目指していた。後半は守備の時間が長くなったものの、速攻からシュートまで持ち込むなど、ゴールを狙う姿勢は示し続けた。「もう一度チームがひとつになって、しっかり準備をして戦いたい」と木原監督代行。星稜は昨年、決勝で延長戦の末に波だを呑んだ。今年こそは笑顔で大会を終えられるか。

  主将・鈴木、土壇場でチーム救う同点弾(埼玉)
流経大柏(千葉) 1−1 前橋育英(群馬)
  (PK4−
【得点】
[流] 小川諒也(72分)
[前] 鈴木徳真(90分)

 ハイレベルな試合は90分間で決着がつかず、まさに互角の内容だった。それでも前橋育英がPK戦を制することができたのは、勝利への気持ちが相手を上回っていたからに違いない。前橋育英は5度目の準決勝で、初めて決勝進出を決めたのだ。

 序盤は速いプレスを仕掛けてくる流経大柏に自陣でボールを奪われる場面が目立った。しかし、主将MF鈴木徳真(3年)を中心に中央を固め、サイドから崩されても確実にボールを跳ね返した。

 10分を過ぎた頃からボランチの鈴木が攻撃を組み立てられるようになり、前橋育英も相手ゴールに近づく回数が増え始めた。18分、MF渡邊凌磨(3年)が左サイドでスローインを受け、右足でミドルシュートを放った。ボールは枠に飛んだものの、GKに横っ飛びでセーブされた。23分には、FW青柳燎汰(3年)がシュートを放ったが枠を外れたが、いいかたちを作り出すことには成功していた。

 スコアレスで折り返した後半、序盤に前橋育英がビッグチャンスを迎えた。8分、渡邊が左サイドのDFラインの裏を突くと、角度のない位置から左足でシュート。これはGKに防がれた。渡邊は直後にも右サイド後方からのクロスをファーサイドで受けると、PA内で左足を一閃。しかし、今度はゴール左ポストを直撃して得点には至らなかった。

 チャンスを決めきれないでいると、逆にワンチャンスを流経大柏にモノにされた。27分、ピッチ中央付近からのパスに抜け出したDF小川諒也(3年)にDFと競り合いながらゴール前に抜け出され、前に出たGK吉田舜(3年)の頭上を左足ループで抜かれた。

 前橋育英はもう攻めるしかなくなった。サイドからの崩しでゴールに向かうものの、流経大柏の堅守をなかなかこじ開けることができないまま時間だけが過ぎていった。90分が目前に迫り、このまま試合終了の空気がスタジアムに流れ始めた。

 ところが、前橋育英が土壇場で流経大柏の決勝進出に待ったをかけた。左サイドからのクロスがDFにクリアされると、PA手前で拾った鈴木が少し前にボールを運んでから右足を振り抜いた。背番号14の主将が「入れ!」と思いを込めたシュートはDFに当たってコースが変わり、ゴール左下へと吸い込まれた。

 劇的な展開で勝負はPK戦にもつれ込んだ。両チームの1人目が決めて迎えた先攻・流経大柏の2人目、FW高沢優也(3年)のキックは右ポストに当たって失敗。一方で、前橋育英は1人目の鈴木から5人全員が成功し、決勝進出を決めた。

「スペースが空いていたので、あそこは狙っていた。もう浮き球が来た時点でシュートしかないと思っていたので、トラップして打つイメージだった。(前にいる)DFは見えていなかった。最後は戦術うんぬんじゃなく、気持ちだった」
 同点弾を決めた鈴木は、ゴールシーンをこう振り返った。それまで、クレバーにボールの配球役をこなしていたが、あの場面は鈴木も「自分が決めるしかない」と考えたという。その判断が功を奏した。主将の同点弾には山田耕介監督も「信じられない。良い準備をして彼が中心になってやってくれた」と手放しで喜んだ。次戦は歴代の先輩たちがたどり着けなかった決勝の舞台。「ここまできたら全力を出し切るだけ」と語る鈴木は、前橋育英を一気に頂点まで導くつもりだ。

(文・鈴木友多)