12日、第93回全国高校サッカー選手権大会準決勝が埼玉スタジアムで行われ、延長戦の末に星稜(石川)が前橋育英(群馬)を4−2で下し、大会初優勝を果たした。試合は前半11分、MF前川優太(3年)のゴールで星稜が先制。後半、前橋育英のFW野口竜彦(2年)、MF渡邊凌磨(3年)にゴールを決められて逆転されたものの、DF原田亘(3年)の得点で追いついた。突入した延長戦で延長前半5分と同20分にFW杉山泰希(3年)がゴールを奪って試合を決めた。

 森山、今大会初ゴールが決勝点(埼玉)
星稜(石川) 4−2 前橋育英(群馬)
【得点】
[星] 前川優太(11分)、原田亘(64分)、森山泰希(95分、110分)
[前] 野口竜彦(53分)、渡邊凌磨(55分)
 逆転されるまでは準優勝に終わった昨年と同じ展開だった。しかし、今年の星稜は違った。試合を振り出しに戻し、勝ち越すというシナリオで、悲願の日本一を掴み取った。

 前半は完全な星稜ペースだった。2分、左サイドからのクロスがGKを越えてファーサイドに流れ、受けたFW大田賢生(3年)が右足で狙った。しかし、これはわずかにゴールマウスを捉えられなかった。試合が動いたのは11分、星稜は相手のミスを見逃さなかった。前橋育英がDFラインでボールを回し、GKへのバックパスが弱くなったところを大田がカット。そのままPA内に進入したところでGKに倒されてPKを得た。これを前川が冷静にゴール右へ決め、星稜が先制に成功した。

 28分には森山の出した右サイドへのスルーパスに杉原が抜け出し、最後は左足でシュート。これはゴールにつながらなかったものの、星稜は先制後もシュートまで持ち込む機会をつくり、前橋育英を押し込んだ。

 星稜は守備陣も高い集中力を保って相手の攻撃を凌いだ。31分、左サイドでボールを持ったMF坂元達裕(3年)にカットインからシュートを打たれたが、GK坂口璃久(2年)が横っ飛びでファインセーブ。34分、セットプレーからのこぼれ球をPA手前で渡邊に拾われ、右足で狙われたものの、シュートはゴール左へと逸れていった。決定的なピンチをしのぎ、リードを保って試合を折り返した。

 優勝まで残り45分。星稜は昨年、2点をリードしたにもかかわらず、後半終了間際に追いつかれて延長戦で逆転された。今年こそはこのまま勝利を掴み取りたいところだったが、後半序盤、前橋育英の逆襲に遭った。8分、相手GKからのロングフィードが最終ラインとGKの間に落ちると、野口にうまくボールをキープされて左足でゴール右へ流し込まれた。この2分後には、渡邊に左サイドを突破され、PA内左サイドから右足で豪快にゴール右へ叩き込まれた。

 昨年は逆転されてから追いつけず、涙を呑んだ。しかし、今年の星稜イレブンはこのままでは終わらない。19分、右サイドからのクロスにファーサイドで原田が頭で合わせて同点弾を決めたのだ。原田は右サイドバックの選手だが、最前線に顔を出していた。1点リードされた場面では、点差を広げられるのを危惧して攻撃参加のタイミングが難しくなるものだ。まして、原田はマークしていた渡邊に突破を許して2失点目の要因になっていた。それでも、この時ばかりは原田の勇気あるオーバーラップがゴールを生み出した。

 その後、両者ともにシュートチャンスを迎えたものの、90分間で決着はつかず、前後半10分ハーフの延長戦に突入した。星稜は昨年の決勝では追いつかれて延長戦を迎えたものの、今年は逆の展開で最後の20分間を戦うことになった。

 すると延長前半5分、それまで前線からの守備でチームに貢献していた森山が本職の攻撃で大仕事をやってのけた。左サイドでのスローインがPA内にこぼれ、反応した森山が左足を一閃。シュートはニアサイドを破ってゴールネットを揺らした。森山は昨年の決勝でもゴールを記録しており、2大会連続の決勝戦弾。「今までチームに迷惑かけてきたので、最後は貢献しよう」と考えていた男は、見事に結果を出した。

 勝ち越し後は攻勢を強めてきた前橋育英に押し込まれた。それでも、星稜は粘り強い守りでゴールを許さず、ボールを奪ってからは相手陣内でのボールキープで時間を稼いでいく。そして10分には、優勝に大きく近づくゴールが生まれた。決めたのはまたも森山だ。PA手前でボールを持つと、迷いなく右足を振り抜く。シュートはゴール左上に突き刺さった。事実上、星稜の優勝が決まった瞬間だった。

「2年前は3位、前回は2位。(君たちは)悔しさを知っている。絶対に日本一を取れる」
 これは試合前に河崎護監督が選手たちに送ったメッセージだ。入院中の指揮官に代わり、木原力斗監督代行がメッセージを代読している間、涙を流す選手もいたという。そのひとり森山は「3年間、つらいこともあったけれど、監督がいたからここまで来られた。恩返しが少しはできたかなと思う」と感慨深そうに日本一の喜びを口にした。

 試合中は、失点直後にピッチ上で円陣を組み、話し合った。キャプテンのDF鈴木大誠によると「昨年の経験を踏まえて、気持ちをもう1段階上げるための話をした」と明かした。1年前の敗北は決して無駄ではなかったのだ。逆転されたことを少しでも引きずっていれば、そのままずるずると時間だけが過ぎ去っていただろう。諦めずに前を向き続けた。これが、星稜の選手たちが悔し涙ではなく、嬉し涙を流すことができた最大の要因に違いない。

(文・鈴木友多)