サッカーをプレーしたこともなければ、見たこともない人が監督をやったらどうなるか。待ち受けるのは、たぶん、壊滅的な状況。では、そうした状況を避けるためにできることはないのか?

 

 ある。チームを優勝させるとなるといささか難しいかもしれないが、得点力を飛躍的に伸ばすことならばできる。

 

 メッシを獲得すれば。あるいは、C・ロナウドを連れてくれば。仮に彼らが加わるのが今季J3で最下位だった盛岡だったとしても、何の問題もない。秋田新監督が汗を流すまでもなく、得点力の問題は解消される。

 

 つまり、時にサッカーはカネで買うことができる。少なくとも、得点力は買うことができる。莫大な、膨大な、気が遠くなるほどの資金力があれば。逆に言えば、それがないがゆえに、世界の指導者は知恵を絞る。

 

 チームの成績はかなりの割合で、チームの得点力に関しては100%に近い確率で、資金力と直結している。カネのあるチームは強いし、何より、たくさん点をとる。それが、サッカー界の現実である。

 

 目下、ノーマークのボルシアMGが首位を快走しているブンデスリーガだが、必ずしも金満クラブではない彼らは、リーガでもっとも多くの得点を奪っているクラブ、ではない。資金力でまさる2位ライプチヒや3位ドルトムント、空前の不調に苦しむ7位バイエルンMでさえ、得点数ではボルシアを凌駕している。3年前に「奇跡の優勝」と騒がれたレスターも、得点数ではマンチェスターCやトットナムの後塵を拝していた。

 

 資金のないクラブが優勝を勝ち取るのは簡単なことではない。だが、資金のないクラブがリーグでもっとも多くの得点をあげるのは、もっと簡単なことではない。

 

 いまのJリーグでもっとも資金力のあるクラブはどこか。もちろん、神戸である。今季の彼らが投じた資金に見合った成果を手にしたとはとてもいえないが、それでも、総得点はリーグ2位だった。

 

 だが、優勝したマリノスは、単に勝ち点でライバルを上回っただけでなく、世界のスターを揃えた神戸や、3連覇に挑んだ川崎Fよりも多くのゴールをあげた。あまり騒がれていないが、これはこれでとてつもない偉業だとわたしは思う。

 

 神戸にはポドルスキがいて、ビジャがいた。川崎Fには小林がいて、ブラジルからの助っ人も加わった。タレントのネームバリューや評価額の総計では、はるかにマリノスを上回っていた。

 

 だが、大物外国人がいるわけでもなく、日本代表の中核がいるわけでもないチームを、ポステコグルー監督はリーグ最高のゴールマシンへと育て上げた。これは、今年に限らず、Jリーグの歴代優勝監督と比べても、特筆すべき成果だと言っていい。

 

 Jで結果を残した選手が欧州に活躍の舞台を移すのはもはや珍しいことではないが、指導者はひたすら輸入超過の時代が続いてきた。だが、来年のACLでもマリノスが結果を残すようなことがあれば、流れは変わる。近い将来、ポステコグルー監督がプレミアの名将と呼ばれる日がきたとしても、わたしは驚かない。

 

<この原稿は19年12月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから