(写真:大晦日に対決した那須川<左>と江幡の戦いには熱がこもっていた。 ⓒRIZIN FF)

 両雄の全盛時からは、もう十余年の時間が流れている。PRIDEのリングで輝いていた頃のようなハイレベルなパフォーマンスを期待してはいけないことは解っていた。

 

 それでも、いま持てる実力のすべてと意地をぶつけ合う“魂の闘い”を見せてくれると信じていたが、残念なことに裏切られた。レフェリーが試合をストップした瞬間、客席からは溜息が漏れる。

 

 私もケージを見つめながら寂しさを感じ、そして思った。

「この試合はやるべきではなかった」と。

『BELLATOR JAPAN(12月29日、さいたまスーパーアリーナ)』のメインイベントとして行なわれた“レジェンド対決”エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)vs.クイントン・“ランペイジ”・ジャクソン(米国)のことである。

 

 結果は、1ラウンド2分44秒、ヒョードルのKO勝ち。

 ヒョードルの動きにも、かつてほどの勢いは無かったが、この試合を凡戦にしたのは、ジャクソンが、メンタル、フィジカルの両面においてコンディションを作れていなかったことにあろう。

 

 PRIDE時代、ミドル級で闘っていたジャクソンの体重は120キロを超えている。UFCでライトヘビー級に転向しているとはいえ、明らかにウェイトオーバーで動きにシャープさを欠いていた。おそらくは、自らを追い込むトレーニングをせずに来日したのだろう。

 

「ここでヒョードルを倒して、もう一花咲かせてやる!」

 そんな闘志も、まったく感じられない。ジャクソンは、すでに「ランペイジ(暴れん坊)」ではなくなっていたのだ。

 期待を込めてマッチメイクしたBELLATORのCEOスコット・コーカー氏も、さぞかしガッカリしていることだろう。

 

 敗者からも伝わってきた熱

 

 だが、その2日後の大晦日、同じくさいたまスーパーアリーナで開催された『RIZIN20』は、熱き闘いが繰り広げられた。

 テレビの視聴率は低かったようだが、フルハウスの会場には熱が充満していた。

 

 那須川天心(TARGET/Cygames)vs.江幡塁(伊原道場)のキックボクシングファイト、朝倉海(トライフォース赤坂)vs.マネル・ケイプ(アンゴラ)のRIZINバンタム級王座決定戦は、いずれも観る者を熱くさせてくれるラジカルファイトだった。

 

 勝者となった那須川とケイプからだけではない。敗れた江幡と朝倉からも、闘いに賭ける熱き想いがヒシヒシと伝わってきた。特に、真っ向勝負を挑んだ江幡。スピードと破壊力で優位に立つ那須川に完敗を喫したが、自らが信じるスタイルを最後まで崩さず、諦めずに闘う姿は清々しかった。

 

 2020年総合格闘技界には、オリンピックに負けない、さらなる熱き闘いを期待したい。「昔の名前で出ています」ではなく、いまを生きるファイターたちの熱き闘いを――。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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