「忍者」「野生児」「破天荒」……。
 どんな言葉で表現しても、その枠に収まりきらないスーパープレーを連発しているのが広島の菊池涼介である。セカンドでのシーズン補殺数日本記録を2年連続で更新。侍ジャパンにも昨年の日米野球に続いて選出され、今や日本を代表する内野手だ。広すぎる守備範囲と、アクロバティックな動きを本人はどうとらえているのか。二宮清純がキャンプ地の沖縄でインタビューした。
(写真:帽子のひさしの裏には「笑顔」と書く。インタビュー中も笑いが絶えなかった)
二宮: 菊池さんの守備は誰もが絶賛しています。侍ジャパンで内野守備走塁コーチを務める仁志敏久さんは「スーパーセカンドになれる」と言っていました。
菊池: 実は僕がセカンドで参考にしていたのが仁志さんだったんです。仁志さんのようなセカンドを目指してやっていたんですけど、全然色が違う感じになっちゃいましたね(笑)。

二宮: 何といっても守備範囲が広い。「なんで、そこにいるの?」とビックリするくらい神出鬼没で、抜けそうな打球を捕ってしまう。
菊池: 「なんで?」と言われても、僕は球種やバッターの癖から判断して、ピッチャーが投げた瞬間にダダダッと動いているだけなんです。たとえば、右バッターでキャッチャーのサインがカーブだとしたら、引っかけた打球が飛んでくるかもしれない。ピッチャーが足を上げた瞬間から忍び足で動いています(笑)。

二宮: バッターに察知されないギリギリのところでスススッと動き出すわけですね。
菊池: 最初の頃は早く動きすぎて、(キャッチャーの)石原(慶幸)さんに「あれじゃ、あからさまにわかっちゃう。もうちょっと遅めに動いたほうがいいんじゃない」と注意されました。それで動き出しのタイミングを直して、今のスタイルになったんです。

二宮: 福岡ソフトバンクの今宮健太選手は「菊池さんは一歩目がものすごく速い」と驚いていました。プロが認めるスゴ技ですね。
菊池: でも、健太もすごいですよ。身体能力が高くて肩がめちゃめちゃ強い。侍ジャパンで健太や山田(哲人、東京ヤクルト)と関わりができて、守備について聞かれたことがあります。「どこを意識しているんですか?」って。

二宮: 何と答えたのですか。
菊池: 「オレは絶対一歩目だ」と。バッターがバットを振り出した時には、もう打球の方向に動いている。そんなイメージでやっています。

二宮: 打球を見て動くのではなく、予測して動くわけですね。
菊池: はい。たまに外れて逆を突かれることもありますが(苦笑)、それは経験として次につなげればいいと思っています。

二宮: 二遊間の打球はもちろん、センター方向の打球も難なくキャッチする。菊池さん向けに二中間という表現をつくったほうがいいのではないかと思うほどです(笑)。
菊池: アハハハ。まぁ、ショートが田中(広輔)、センターが丸(佳浩)と同級生が揃っているのも大きいでしょうね。お互いに意思疎通ができているので、思い切ったプレーにつなげられるんです。丸なんか最初は「わっ、そこにいたんか!」と思っていたようですけど、今は「見慣れてしまって麻痺している」と言っていましたね。

二宮: ファインプレーを普通に見せるのが本物のプロです。ある意味、最高の褒め言葉かもしれません。
菊池: 僕自身もファインプレーをしようという気はありません。とにかく必死に最後まで追ってグローブに収める。収まったら投げる。反応で動いているので、それ以上の意識はありません。

二宮: カープでは高橋慶彦さんも守備範囲の広い内野手でした。ただ、ものすごく難しい打球をスーパーキャッチしたかと思えば、正面のなんでもないゴロをエラーすることもありました。
菊池: いや、正面は一番難しいんですよ。距離感がつかみにくいので……。僕も課題にしています。

二宮: それは意外ですね。
菊池: 野村(謙二郎)前監督にも、石井琢朗コーチにも言われ続けています。左右のゴロは感性で捕れても、正面の打球はバウンドを合わせるのが難しい。周りからは簡単そうに見えるだけに、“いつ跳ねるかわからない”という心理が影響する部分もありますね。

二宮: 以前、石井コーチに聞いたら、「打球に正面から入るな」と選手たちに伝えているとか。
菊池: 「ボールを1回、外に出しなさい」と言われますね。そんなアドバイスを受けたことは今まで一度もありませんでした。何も知らずにプロに入ったので、新たなことを教わればレベルアップできる。だからプロに来て本当に楽しく野球ができています。

<現在発売中の講談社『週刊現代』では菊池選手の特集モノクログラビアが掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>