岡山県にキャンパスを置く環太平洋大学はスポーツ科学の知識と実践力を兼ね備えた“体育人”育成を目的に、昨年3月にスポーツ科学センターを開設した。スポーツ科学センター長を務める体育学部の三浦孝仁学部長は障がい者ダイビングの指導団体「HSA JAPAN」の代表理事も務めるなどパラスポーツとの関わりも深い。三浦学部長に“体育人”育成への思いと、障がい者ダイビングの魅力について訊いた。

 

二宮清純: 環太平洋大学は昨年3月にスポーツ科学の研究拠点となるスポーツ科学センターを開設しました。その設立目的とは?

三浦孝仁: スポーツ科学の知識と実践力を兼ね備えた“体育人”を育成することです。

 

二宮: “体育人”とは?

三浦: 私たちはスポーツの指導者やスポーツトレーナーなど選手の成長や競技の発展を支える人を“体育人”と呼んでいます。昔は体育における専門家と言えば、学校の先生でした。今はスポーツトレーナー、スポーツインストラクター、柔道整復師など活躍の場が増えています。そういった時代の中で、“体育人”はどういう存在であるべきかを考えなければいけない。誰のために、何のために研究するのかを学生たちに伝えていきたいと思っています。

 

伊藤数子: 環太平洋大学は柔道、野球、陸上など部活動も盛んですね。“勝ってこそ体育会”を標榜していらっしゃいます。

三浦: 3学部5学科あり、一番学生数が多いのが体育学部です。理事長が体育会の会長ですから、部活動にも力を入れています。柔道部の素根輝選手は女子78キロ超級で東京オリンピック日本代表に内定しました。女子野球など全国大会優勝を果たした部活もあります。

 

伊藤: 私もキャンパスにお邪魔したことがあるのですが、学生の皆さんの挨拶がすごくきっちりされていて、こちらも背筋が伸びました。

三浦: そう言っていただけるとうれしいです。私たちの大学は礼儀・礼節をとても大切にしているんです。大学の行動指針「五訓」のひとつに「礼節」が入っているほど徹底しており、とても厳しく指導しています。

 

 夢と希望がある筋肉

 

伊藤: 昨年4月にはスポーツ科学センターの研究施設「インスパイア」の運営がスタートしました。動作分析装置などスポーツ科学を研究するための機器をたくさん備えているのは中四国の大学併設施設では唯一だそうですね。

三浦: 通常ならば大学院でしか扱えないスポーツ科学の研究機器が揃っています。それに体育学部の学生は触れることができ、早い段階からスポーツ科学を学べます。これは他の大学にはない魅力だと思っています。科学的なこともわかる指導者、アスリート、トレーナーになれれば、より良い“体育人”になれると考えています。

 

二宮: 科学を採り入れた“近代的な体育人”を育成したいということですね。先日、「アスリートは歳を取るほど強くなる」という本を読んだのですが、科学的な観点からすれば、それは当てはまりますか?

三浦: 筋力に関しては、年齢を重ねても強くなります。私は岡山大学に勤めていた時にウエイトトレーニングの世界にも関わってきました。以前の教科書では20歳を筋力のピークと捉えていました。しかし当時、日本代表クラスの選手は40代でしたし、50歳を超えてから自己ベストを出す選手もいましたから。

 

二宮: 陸上の走り高跳びの選手は、ピークを過ぎると「膝のバネがなくなってくる」という話を聞いたことがあります。

三浦: ジャンプ、ダッシュといった瞬発系能力は落ちていきます。しかし重い物を持ち上げる筋力そのものは、いくつになっても鍛えることが可能です。だから私は夢と希望があるのが筋肉だと考えています。

 

二宮: 努力した分だけ応えてくれる要素があるというわけですね。ボディビルダーにも高齢の方がいらっしゃったりもします。

三浦: そうなんです。あとは個人差がありますから、その人にとって適切なトレーニング方法を見つける必要があります。正解を導き出すためには科学的な知識が役に立つはずです。選手の正しいトレーニングを支えるのが指導者やトレーナーの仕事。私たちの大学の学生も卒業後、そういった道に進む者もいますから、在学中に科学の知識を得ることは必須になりますね。

 

伊藤: 今後、どのような展開をお考えですか?

三浦: 学生たちがもっとパラスポーツに関われるような環境づくりをしていきたい。私たちの大学にはボッチャ、シッティングバレーといったパラスポーツに関わっている教員もいます。パラアスリートが“入学したい”と思える大学でありたいと考えています。パラアスリートの入学は、トップアスリートを目指す学生の他、トレーナーを目指す学生たちにも良い影響を与えるはずです。学生たちが切磋琢磨し、成長し合える大学にしていきたいです。

 

(後編につづく)

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三浦孝仁(みうら・こうじ)プロフィール>

環太平洋大学体育学部学部長/スポーツ科学センター センター長。1957年、埼玉県出身。1980年3月、早稲田大学教育部卒業後、日本体育大学大学院に進んだ。その後、専門学校講師を経て、1988年に岡山大学へ赴任。顧問を務めたウエイトトレーニング部は10度の全国制覇を果たした。1996年に岡山大学で医学博士の学位を取得。同大の教授、キャリア開発センター・副センター長を経て2013年、岡山大学名誉教授に就任した。同年10月に学校法人朝日医療学園の副理事長に就任。2014年4月には同学園長を務める。2017年に環太平洋大学体育学部学部長に就任。2019年3月には新たに開設したスポーツ科学センターのセンター長を務める。障がい者ダイビングの指導団体「HSA JAPAN」の代表理事も務めている。著書に『筋トレっち 走れるカラダの育て方』など。

 

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