日本で開催されるラグビーワールドカップ2019の組織委員会の嶋津昭事務総長は6日、都内で会見を開き、W杯を運営するRWCL(ラグビーワールドカップリミテッド)が2日にアイルランド・ダブリンで開催した理事会の内容などを報告した。この理事会では日本大会の開催都市12カ所が決定。日本戦の試合会場について、嶋津事務総長は「分散するイメージ。そうしないとファンは納得しない」と全国各地で実施したい意向を明らかにした。日本は開幕戦を新国立競技場で実施する予定で、少なくとも予選プールの残り3試合は地方で行うかたちになる。
(写真:「2019年に向けて走り出すスタートラインに立った」と話す嶋津事務総長)
 開催都市決定から4日、現地で理事会に出席していた嶋津事務総長は、前日に帰国した疲れもみせず、予定時間をオーバーして報道陣の質問に答えた。

 この理事会での焦点は組織委が提案した12開催都市案が承認されるかどうか。RWCLは運営コストなどの観点から、開催決定時に日本ラグビー協会と結んだ合意書の中で、「会場は10程度に絞る」との文言を記載していた。
 
 しかし、組織委では「ラグビーを日本全国に普及、発展させる」という理念の下、12会場での実施を希望。1月にRWCLのアラン・ギルピンCEOらが現地視察で来日した際には、まだ開催都市数について意見の相違があった。だが視察を通じ、「日本の施設はいいという感想を持ってもらった」(嶋津事務総長)と徐々にRWCLのスタンスが軟化してきた。

 これを踏まえ、2月18日の組織委理事会では12の開催都市案を承認。嶋津事務総長は森喜朗副会長(日本ラグビー協会会長)から「12で了承されるまで帰ってくるな」と背中を押され、現地に飛んで詰めの交渉を行った。結果、RWCLは組織委の提案を受け入れ、12会場での開催を認めた。

 実は理事会では開催都市決定の前に、大会の財政に関する議論がなされていた。そこで組織委は50億円の財政調整基金の設立を報告。嶋津事務総長によると「財政的基盤を確立したものとして前向きに受け止められた」という。50億円は開催都市の分担金約36億円と、財務委員会が各企業から募る寄付金約38億円から積み立てる。嶋津事務総長は「ファイナンスと会場の議論は別物」と直接の関連には言及しなかったが、財政面でのアピールが組織委の12開催都市案をより受け入れやすい状況にしたことは想像に難くない。

 さらに、「今までのラグビーW杯とは違うビジネスモデルを考えなくてはいけない」と嶋津事務総長は民間からの寄付金に加えてローカルスポンサーを募り、財源にしたい考えも改めて表明した。現状のラグビーW杯では大会スポンサーや放映権料などは主催者側に入り、組織委の収入源はチケット売上に頼らざるを得ない構造になっている。ローカルスポンサーのような形式で資金調達が認められれば、組織委の財政も安定する。この交渉窓口は日本協会が担っており、嶋津事務総長は「スキームをどう設定しているのかも含めて議論しているところ」と語った。

 開催都市が具体的に決まり、組織委としては大会に向けた準備がいよいよ本格化してくる。秋のイングランドW杯を経て、2016年からキャンプ地選定の作業がスタートする。嶋津事務総長はキャンプ地はイングランド大会と同様、40程度になるとの認識を示し、「選考のプロセスがW杯を周知する大きなきっかけになる」と全国各地での誘致合戦が大会への機運を高めることにつながると期待を寄せる。

「W杯は一過性の大会ではない。やったレガシーをどう普及、発展につなげていくか。コミュニティレベルで支えられないと競技は発展しない」
 開催都市に決まった自治体では、住民レベルでの受け入れ態勢を模索するなど、地域ぐるみで大会を支えようとする動きが出始めている。キャンプ地の選定や、大会に向けた活動を通じて、どこまでオールジャパンで盛り上げられるか。4年後に向けた取り組みは新たな局面に入った。