第939回 災害大国・日本の盲点だった「感染症対策」
日産スタジアムの近くには東京都町田市の泉を源流とする鶴見川という一級河川が流れており、かつては洪水や氾濫を繰り返すことから“暴れ川”と恐れられていた。
今月19日、気象庁が「東日本台風」と命名した台風19号が東日本を襲ったのは昨年10月のことだ。
13日には日本代表が日本ラグビー史上初のW杯決勝トーナメント進出をかけたスコットランド代表戦が日産スタジアムで行われ、28対21で勝利、列島が歓喜に包まれた。
この歴史的な一戦、当初は開催自体が危ぶまれていた。台風の上陸に伴い、鶴見川からあふれた水が堤防を越え、スタジアムに流れ込んでいたからだ。
しかし、スタジアムを管理する横浜市体育協会公園管理局によると、この氾濫は「遊水地の機能を果たした結果」だという。
<多目的遊水地とは、河川が氾濫した際に一時的に河川の水を引き込み、洪水の一部を溜めることで、流域への洪水被害を低減させる機能を持っています。新横浜公園内にある日産スタジアムは、実に千本以上の柱の上に乗る形で建設されており、洪水時にはスタジアムの下に水を流し込む仕組みになっています。新横浜公園自体が、洪水から街を守るための安全・安心の装置なのです>(スタジアムHP)
ひらたくいえば日産スタジアムは弥生時代の「高床式倉庫」ならぬ「高床式スタジアム」なのだ。穀物の代わりに地域住民の安全を守る減災・防災装置でもある。
2015年に完成したパナソニックスタジアム吹田の観客席の下には飲料水や毛布などが備蓄されている。また救援物資の配送拠点としての顔も併せ持つ。
このように災害大国・日本にあって近年、スタジアムやアリーナが担う役割は増々大きくなっている。
だが盲点があった。感染症対策だ。一度に数万人、数千人が集まるスタジアム・アリーナはウイルスの集団感染の温床となりやすい。
地震や台風が発生した場合、スタジアム・アリーナは避難所としても活用される。最悪のシナリオとして、もし自然災害と感染拡大の時期が重なってしまったら…。私たちは常日頃から最悪の状況下でも最善の選択肢を導き出す準備と訓練をしておかなければならない。間もなく9回目の3・11がやってくる。
<この原稿は20年2月26日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>