RBライプツィヒはブンデスリーガ1部に所属する18クラブの中で、2つしかない旧東ドイツに本拠を置くクラブのひとつである。

 

 またライプツィヒは1900年にドイツサッカー連盟が創設された場所であり、1903年にドイツ初の全国大会で優勝したのもVfBライプツィヒだった。こうした背景もあり、ライプツィヒのサッカー熱は高い。

 

 だが、ベルリンの壁崩壊後、東西の経済格差により、西側に対抗できる東側のクラブはなくなった。

 

 そこに目を付けたのがオーストリアの飲料メーカー・レッドブルである。自社の社員9人でライプツィヒに新しいフェアアイン(社団・非営利法人)を設立し、運営に乗り出したのだ。このあたりの事情はドイツサッカーに精通している釜崎太明大准教授の研究報告に詳しい。

 

 ブンデスリーガには「50+1」という独自のルールが存在する。ひらたくいえば会員で構成するフェアアインの独立性、民主性を守るため、投資企業は49%までの投票権しか認められていないのだが、レッドブルはルールの盲点を突き、自らフェアアインを立ち上げた。

 

 ちなみにRBライプツィヒのRBは正式には「ラーゼンバル・シュポルト」(芝生の競技)として登録されているが、誰もが「レッドブル」を想起しよう。公共財であるフェアアインが企業の宣伝目的に利用されているとして、他のクラブからは目の仇にされている。

 

 一方でライプツィヒ市民の多くはレッドブルの資本参加を支持していると言われる。現在、リーグ2位の順位はレッドブル資金があればこそ。「西高東低」の勢力図に一矢を報いるためには必要な手段だったと考えているようだ。

 

 そんな中「新型コロナウイルスに感染していた疑いがある」として、スタジアムから日本人サポーターを追い出す事件が起きた。ライプツィヒは商業主義的ではあるものの、反ファシズムの一点において左派系のFCザンクトパウリと共闘もしている。ウェブサイトには「信条、出自、肌の色、性的アイデンティティに関係なく」誰もが歓迎される、と記されている。

 

 しかし近年、旧東独圏は、西側との経済格差に加え移民の流入もあり、人種差別が蔓延していると言われる。スタジアムにおける感染ならぬ「観戦リスク」は深刻な問題だ。今回の一件はレアケースであって欲しい。

 

<この原稿は20年3月4日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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