香川オリーブガイナーズは昨季限りで西田真二監督が勇退し、今季は新たに松中信彦GM兼総監督の下、開幕に向け準備を進めていた。だが、3月25日、急転直下の人事で生え抜きコーチである近藤智勝の新監督就任が発表された。「まさか監督とは……」と新指揮官も初めは動揺を隠せなかった。香川一筋、アイランドリーグで戦ってきた近藤監督に指揮官としての決意を聞いた。

 

 良い意味で開き直る

 監督就任は本当に急な話だったので驚きましたが、今はグラウンドの長として責任と覚悟を持ってやっていかなければならない。そう思っています。

 

 これまでコーチとしてチームを支えてきたので、監督になってもやることは変わりません。監督経験がない分、経験者と比べると物足りない部分もあるでしょう。でも、自分のできることをしっかりやっていくだけです。監督が悩んだりブレてしまったら選手はやりにくい。監督になったからにはどっしりと構え、背伸びをせずにやっていくだけです。自分の采配ひとつで勝ち負けが決まるわけですが、失敗したら責任をとるだけだ、と良い意味で開き直り、思い切りやるつもりです。

 

 香川の野球は長年、西田前監督が培ってきたディフェンスから勢いをつけるスタイルです。投手なら四球を出さず、野手は確実にひとつのアウトをとっていく。攻撃では基本の走塁を疎かにしない。そうしたことを積み重ねてきた香川の野球に、今季は松中さんが来たことでプラスαが期待できます。松中さんがNPBで得た経験から技術面やメンタル面で多くのものを還元してもらい、それをチーム強化に活用したいと考えています。

 

 香川に限らず独立リーグのチームは独特の集団です。NPBを目指している選手もいれば、自ら野球を極めようと頑張っている選手もいる。またレベルも強豪校に在籍した"野球を知っている"選手から、基本からやらなければいけない選手まで混在しています。その中でチームをまとめるのは非常に難しいことだと、コーチ時代から痛感していました。

 

 でも、長年やっていて気づいたことがあります。ベンチがあれこれ言わなくても、選手間でアドバイスをしてチームのレベルは向上し、そしてまとまっていきます。今季も香川は半分以上の選手が新入団です。新しい選手たちも合同自主トレなどを経て、「独立がどういう所か」「香川はどういうチームか」ということがようやくわかってきた感じです。独立リーグはアマチュア時代とは異なり、野球をする時間はたっぷりあります。それを個々が有効に使えるかどうか。個人の能力というのはそこで差が出てくるでしょうね。

 

 まとめ役としては中村道大郎が人間性もいいし、元気もあるから、新人は彼を参考にすると良いと思っています。キャプテンの白方克弥は愛媛、香川とアイランドリーグで過ごして経験も豊富で、最近は自覚も出てきました。そのキャプテンを中村が一歩引いたところからサポートする。そうすることで今季もチームは良い雰囲気でまとまることでしょう。

 

 今季、私がキープレーヤーと考えているのが、新加入のキャッチャー天野龍人です。地元・高松南高校出身で注目度も高い。肩が強いので正捕手としてじっくりと育てられればチームを引っ張る存在になってくれると期待しています。外野手では東洋大出身の堀北彰人をリードオフマンとして期待しています。

 

 投手では昨季5勝の森崎友星には引き続き活躍してもらいたいし、元阪神の歳内宏明は成績はもちろんですが、準備の仕方や心構えなどを見て若い選手が学んでほしい。そういう教材としての役割も期待します。さらに新加入の近藤壱来は気持ちの強いピッチングが身上なので試合後半を任せてみたい。いずれにしても開幕に備え、選手を見極め起用法を決めていきます。

 

 若いチームは勝つことが何よりも成長の糧になります。そのためにも自分の経験をいかしていきたいですね。香川に選手として入ってから多くのNPB出身の指導者から様々なことを教わりました。アマチュア時代には聞いたこともないような指導、作戦もあってそのたびに驚き、そして吸収してきました。守備、バッティング、走塁も細かく教えていただき、野球の引き出しは確実に増えました。その経験をいかし、これまでの指導者の教えをミックスして自分なりの色を出していきたい。

 

 理想とするのはスキのない野球。常に先を読みながらプレーする、そういうチームにしたいですね。

 

 香川一筋の私が監督になったことで、ファンの皆さんの間ではとても話題になったようです。中には「大丈夫か」と心配する人もいたと思います。引き続き応援してもらえるように結果を出し、強いチームをつくっていきたい。思い切ってやるだけだと意気込んでいますので、これまでと変わらない応援をよろしくお願いします。早く野球を楽しめる環境になるように祈っています。

 

<近藤智勝(こんどう・ともすぐ)プロフィール>香川オリーブガイナーズ監督
1982年11月25日、神奈川県出身。野球を始めたのは小学3年生。中学時代は緑東シニア(現・青葉緑東)に所属し、全国優勝を果たした。桐光学園(神奈川)入学後、1年春からベンチ入り。1年夏に県大会準優勝、2年夏県大会ベスト4など善戦するも激戦区神奈川の壁に阻まれ甲子園出場は果たせなかった。駒沢大学では1年春からベンチ入り。同級生に服部泰卓(千葉ロッテ)、後輩に新井良太(阪神など)、野本圭(中日)らがいた。卒業後は四国ILコミッショナー(当時)の石毛宏典にスカウトされ、創設したばかりの香川オリーブガイナーズへ入団。パンチ力のある打撃でチームを牽引し、10年まで現役を続け、ベストナインに4度輝いた。現役引退後は香川でコーチを務め、20年から監督に就任した。

 

(取材・文/SC編集部・西崎)


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