高卒2年目ながら楽天の松井裕樹が新守護神として立派に大役を果たしている。ここまで(5月11日現在)、12試合に登板して6セーブ、防御率は0.00だ。ルーキーイヤーの昨季は先発では制球難に苦しみ、2軍降格も味わった。リリーフに転向してから徐々に本領を発揮し、先発復帰。最終的には4勝(8敗)をあげた。今季はチーム事情で、抑えを託されることになったが、高い奪三振率で試合をきっちり締めくくっている。試行錯誤を繰り返した1年目を傍で見守ってきた現福岡ソフトバンクの佐藤義則コーチに、松井の変化について二宮清純が訊いた。
二宮: 松井投手はプロ入り当初、いいボールを投げても、コントロールに不安がありましたね。
佐藤: でも、今はそんなことないでしょう? かなり良くなりました。去年の段階で今年は行けると見ていました。

二宮: 改善した点は?
佐藤: 彼の悪いところは踏み出す右足のヒザが突っ張って、割れてしまうのでバランスが悪くなる。それでコントロールが乱れていたんです。だから、1度、ファームに落とした時にシャドーピッチングからバランスが崩れないようなフォームに修正してから良くなってきました。1軍に復帰してからは四球で自滅することはほとんどなかったと思いますよ。

二宮: 復帰してからはリリーフで起用されていましたね。
佐藤: ファームでもリリーフで使っていましたからね。彼の場合は100球前後で疲れてくると、どうしても制球が乱れてくる。だから短いイニングで投げてもらって、将来的には先発をやってもらうプランでした。

二宮: 佐藤さんの下でブレイクした左腕といえば、阪神時代の井川慶投手(オリックス)が思いだされます。彼の場合はどうでしたか。
佐藤: 一言で言えば不器用。めちゃくちゃ不器用な男ですよ。ボールは素晴らしかったけど、2つのことを同時にできない。たとえば「股関節を開いて投げろ」とアドバイスしたとする。そしたら、腕が振れなくなってワンバウンドを連発してしまうんです。

二宮: それでも佐藤さんが阪神のコーチを務めていた2003年には20勝。沢村賞にも輝き、リーグ優勝に貢献しました。
佐藤: ローテーションの中心になって優勝できたから感謝していますよ。まぁ、メジャーでは通用しなかったけどね。僕も無理だと思っていた。星野(仙一)さんに「オマエがあんな風に勝たせたから、勘違いしたんや」と怒られましたよ(笑)。そういえば、亡くなった伊良部(秀輝)が井川についておもしろいこと言っていたね。

二宮: どんな話でしょう?
佐藤: 井川が日本で勝てたのは荒れ球だったから。日本の野球は細かいから、コントロールがいい方が狙い打ちされる。「フォアボールを出さずに、そこそこ荒れ球のピッチャーのほうが日本では勝てる」と言っていましたよ。そう言われたら、そうかもしれないね。

二宮: 不思議なのは、大型左腕と鳴り物入りで入ってきても、期待通りに活躍するケースと、泣かず飛ばずに終わるケースが両極端に分かれることです。
佐藤: 巨人に行った辻内(崇伸)とか、高校の時に見て、あのスピードボールは魅力的でしたよ。でも、巨人ではなかなか出てこない。聞いたら、故障して投げられなくなってしまったと……。ソフトバンクにいた小椋(真介)もそう。やっぱりスピードは天性のもの。教えて速くなるわけじゃない。だから、それを生かすフォームに修正してやったら、いくらでも良くなったと思うよ。

二宮: コーチとの出会いや相性は選手にとって重要ですよね。佐藤さんも苦労して手掛けたピッチャーが活躍するのは人一倍の喜びがあるでしょう。今までで一番うれしかったのは誰?
佐藤: 誰かな? たくさんいるから、パッとは出てこない。でも、昨年で言えば、やっぱり松井が勝った時はうれしかったね。高校から来て、なかなか結果が出なかったから。今でも彼のことは気になりますよ。

※過日、『週刊現代』で掲載された佐藤コーチのインタビュー記事が「Sportsプレミア」にも転載されています。
>>二宮清純レポート「佐藤義則『勝てない投手を勝たせるのが、私の仕事』」はこちら