出口戦略の前に持続化戦略である。先週、JFAが公表した第一次の財政支援事業計画はコロナ禍により資金難に陥った街クラブにとって慈雨となるだろう。融資条件は無利子、無担保。法人格を有しないクラブも融資の対象となる。返済期限は最大で2032年まで。協会関係者によると「20億円近い規模」を見込んでいるという。

 

 協会が財政支援事業に乗り出した背景には、日本サッカーの足元を支える街クラブの困窮がある。「借金してでもやる」という田嶋幸三会長の決意は、存続か撤退かで揺れる街クラブを物心両面から支えるものだ。

 

 電話での取材に、田嶋はこう答えた。「街クラブやスクールが一度潰れてしまえば、復活するのに大変な時間とコストがかかる。火事にたとえるなら、消せる時に消しておくことだ」

 

 街クラブの中には法人格を有しないクラブも少なくない。要は、任意団体ということだ。仮に任意団体が運営するクラブと「業務委託契約」を結んでいるコーチがいるとしよう。この場合、指揮命令を受ける立場にないため、現状、雇用調整助成金の対象とは見なされにくい。田嶋が頭を痛めるのもこの点だ。

 

 緊急時において、重要なのはブレーキよりもアクセルである。「スピード感を重視する」と田嶋は言う。「WEB上に申し込みシートがあって、僕も1回試してみた。申請後、10日から2週間以内におカネが振り込まれるようにしたい。チェック機能も大事だが、基本的に性善説でいきたい」

 

 性善説に賛成である。国内だけで約39万人の死者を出したと言われる100年前のスペイン風邪。感染拡大を阻止できなかった理由のひとつにマスク不足があったと言われている。市中に行き渡らなかった背景に、<不正の商人暴利を貪る等の事実>があり、商人に対する各警察署長の取り締まりが厳重を極めたためだと内務省衛生局の資料にはある。

 

 融資も同様だ。「溺れる者はワラをも掴む」というが、審査に手間取り、溺死した者にワラを手渡したところで、何の意味もない。ごくわずかな「不正商人」には目を瞑ってでも善良なサッカーファミリーに手を差し伸べるべきだろう。貸し倒れ損失よりも日本サッカーを支えるグラスルーツ崩壊リスクの方が、はるかに深刻だと考える。火事場泥棒のような腹黒い輩は、後で追放すればいい。

 

 

<この原稿は20年5月13日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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