アントニオ猪木が創設した新日本プロレスは、日本では最古のプロレス興行団体である。この1月で、創設48周年を迎えた。

 

 

 2012年にカードゲーム会社のブシロードが経営に乗り出し、現在はオランダ出身のハロルド・ジョージ・メイが社長を務めるが、団体のシンボルである“ライオンマーク”は昔のままだ。

 

 ライオンの顔をデザインしたこのロゴマーク、鬼軍曹として知らした山本小鉄がアイデアを出し、デザインしたものと言われている。

 

 ロゴマークの上部には「KING OF SPORTS」の文字が刻まれている。「プロレスこそスポーツの王様」という猪木イズムを“百獣の王”に重ねている。

 

 新日本は興行面でもライオン級の強さを発揮している。それを証明したのが今年1月4日、5日に東京ドームで打った興行だ。2日間で7万人を超える観客を集めた。

 

 盛況のリングを牽引するのがエースのオカダ・カズチカだ。2日続けてメインイベンターを務めた。

 

 身長191センチ、体重107キロのオカダは、スタイルからして日本人離れしている。驚くのは跳躍力。無重力の空間にいるかのように高々と跳び上がり、相手の喉元にドロップキックを突き刺す。

 

 ドロップキックの名手といえば、私たちの世代では“千の顔を持つ男”ミル・マスカラスを思い浮かべるが、ジャンプの最高到達点はマスカラスの比ではあるまい。

 

 日本人レスラーでオカダ級の身体能力を備えていたのは、私の知る限りではジャンボ鶴田くらいだ。底無しのスタミナも2人の共通点だ。

 

 4日の試合でオカダは19年G1クライマックスの覇者・飯伏幸太の挑戦を退け、IWGPヘビー級王座の5度目の防衛に成功した。試合時間は39分16秒。

 

 だが続く5日の試合ではIWGPインターコンチネンタル王者・内藤哲也にフォール負けを喫し、タイトルを失った。試合時間は35分37秒。

 

 2日間で計74分53秒。シングルマッチゆえ、休んでいる時間は1秒もない。まだ32歳といえ、よく体が持つものだと感心した。まさに猪木が提唱したストロング・スタイルの後継者だ。

 

 オカダのニックネームは「レインメーカー」。リングに「カネを降らせる」と広言している。

 

 新日本の公式サイトには<金色に輝くガウンに身を包み、自身の顔が刷り込まれたレインメーカードルが舞い踊る入場シーンは新日本プロレス随一の華やかさを誇る>と書かれている。

 

 オカダがそうであるように、プロレスラーは強さだけではなく華も求められる。ベビーフェイスは老若男女、誰からも愛される存在でなければならない。

 

 プロレスは、仮に言葉が通じなくても、目の前のレスラーについて深く知らなくても、会場に行けば、誰もが楽しむことのできるスペクタクルなスポーツだ。

 

 ワクワク、ドキドキ、ハラハラ。オカダにはプロレスの魅力を広める伝道師になってもらいたい。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2020年4月5日号に掲載されたものです>

 


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