侍ジャパンにも選ばれた広島・丸佳浩が開幕からバッティングで苦しんでいる。
 ここまで打率.233、得点圏打率.154。開幕から主に3番を任されていたが、スタメン落ちや7番への降格も味わった。昨季は自己最高の打率.310、19本塁打を放った好打者に何が起こっているのか。12年オフから広島で打撃コーチを務め、丸の成績向上にも寄与した新井宏昌コーチに不振の原因を語ってもらった。
(写真:現役時代は2038安打。コーチとしてもオリックス時代のイチローらを手がけた)
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 丸はカープの中心としてやってもらわなくてはいけない選手です。彼自身も、よりレベルアップしようと春のキャンプから取り組んでいたと思います。ただ、キャンプの頃からバッティングの状態は良くなかったですね。

 丸は菊池(涼介)とともに、チームの得点源です。彼ら2人の活躍がチームを勢いづけてきました。それは本人たちも自覚しています。今年は特にファンの期待も大きくなっていますから、それに応えようという思いが力みにつながっているのかもしれません。

 昨季、あと1本でホームラン20本というところまでいったせいか、遠くへ強く飛ばしたいと意識するあまり、どうしてもステップが一塁側の方に流れてしまう。すると右の腰が一塁側に行ってしまい、体の開きが早くなるんですね。その分、打ちに行ってもいいコンタクトができない。外のボールはひっかけるし、内のボールはバットの出が悪くなって詰まってしまう。この繰り返しが多くなっています。

 これまで丸とはグラウンドの(フェアゾーンの)90度にいい打球を打ち返そうとやってきました。それで成績を残してきて、今度はライト方向へ大きな打球を飛ばし、よりいい結果を残してやろうと求めている感じがします。

 丸もバットの出が悪いことは感じているので、チャンスでチームの勢いをそぐような打撃内容をしたら具合が悪い。そういう意識もあって、余計に得点圏でバットが出せないのではないでしょうか。

 バッティングはボールを飛ばそうと意識しなくても、タイミングよく打てば、勝手にライト方向へ強い打球が飛ぶものなんです。でも、今は自分で飛ばそうとして無駄な動きが増えている。

 もともと彼は、僕がオリックスの2軍監督時代に観ていた頃は、非常に無駄の多いバッティングをしていたんです。名前のごとく、丸く円を描くスイングでした。最短距離でバットが出てこないので、タイミングがあった時には強い打球が打てますけど、1軍クラスのピッチャーに緩急をつけたピッチングをされると、合う時と合わない時がはっきりしてしまう。これでは、なかなか1軍定着やレギュラーは遠い。広島にお世話になることが決まってから、まずは、その無駄を省くところからスタートしたんです。

 実は彼の弱点は体が硬いところ。関節が硬いんです。そのため、低めのボールが決して得意ではありません。ゲームになると、いい形でいいスイングをして、いい打球を飛ばして、結果を出していくという理想の打ち方は簡単にできません。体勢が崩れながらもバットの芯をうまくボールの芯にもっていくことも求められる。イチローなんかは、この技術に長けていました。体勢が崩れようが何をしようが、バットの芯のもっていき方を知っていて、こう出せばヒットゾーンに飛ぶという感覚を体が覚えているんです。でも、丸はそうではありません。丸はいい形でないといい打球は打てない。

 そこで、バットを高く構えていたのを低くしたんです。低く構えると、低めのボールに対して、よりレベルに近いスイングができると思っています。高く構えてしまうと、低めのボールにはダウンスイングで対応するしかない。体をうまくコントロールできても、上体を潜り込ませながら打つかたちになってしまう。しっかりとした体勢でレベルに振るには高く構えすぎない方がいい。丸のように体の硬い選手はなおさらです。

 体の開きを抑えるために、いろいろ本人とも練習では取り組んできました。たとえば右手と左手を逆にしたスイング。これは右手の使い方を矯正する目的です。体が開くと右手を大きく振り抜いてバットの通りは良くなったように感じますが、その分、ポイントがずれると、せっかくの好球をファールゾーンに飛ばしてしまったり、外のボールをひっかけてしまう。

 左右を逆にすることで、右手を小さく鋭く動かしてスイングすることになります。この矯正をすることで内のボールもコンパクトに振り抜いて、いい打球を飛ばせる。よい逆方向へのヒットも増えてきて、いい感じに戻りつつあると思いますよ。
(談)

<現在発売中の『FLASH』(光文社)6月30日号では新井コーチのコメントとともに、丸選手本人へのインタビュー記事が掲載されています。こちらも併せてご覧ください>