第959回 将来見据えた独クラブの「計画的倒産」
サッカーのドイツ1部リーグで4度の優勝を誇る古豪1.FCカイザースラウテルン(FCK、現在は3部)が、新型コロナウイルス感染拡大による収益悪化で破産申請を地方裁判所に行ったというニュースには驚いたが、メディアで報じられた「計画倒産」という文言にはもっと驚いた。
日本で「計画倒産」でも企もうものなら、それこそ詐欺師のような扱いを受ける。いや、実際、詐欺罪に問われることが少なくない。経営者が倒産を前提に金融機関から融資を受け、それで豪遊した挙句、返済しなかったら、お縄に掛かるのは必定である。
ところがFCKの「計画倒産」の場合、調べてみるとそこに悪意は微塵も感じられない。むしろ再生のために取り得る、唯一にして最善の手法だったのではないか、とさえ思えてくる。事実に照らせば「計画倒産」ではなく「計画的倒産」と記すべきだろう。一字違いで大違い、とはこのことだ。「計画的倒産」の場合、騙し討ちではないため、周囲への被害が少なく、再起をはかりやすい。
ドイツメディアの反応はどうか。<FCKは専門家の鑑定によって「ポジティブな継続過程」をもつと評価されている。この鑑定書に基づいて、クラブは地方裁判所に、クラブが財政的な義務を果たし、利益を上げられる状況に将来再び戻れることを証明するつもりである>(SWR SPORT6月14日配信)
ドイツの立法機関はコロナ禍で打撃を受けた法人を救済するため、一時的に破産法を緩和した。これにより<過剰債務に陥っているプロクラブが破産によって自らを健全化するための条件は、かつてなかったほど整っている>(同前)という。
そうはいっても破産処理には時間がかかる。先を見据えた前向きな倒産だったとしても、債権者が手にできる額は請求額のほぼ10%に過ぎず、クラブへの投資判断の是非が株主から問われることになる。
債権者が差し押さえるのは将来、クラブ側に入るチケット収入と移籍金だ。しかし、それだけでは足りない。会員や入場者の顧客情報の提供を求めているという話もある。いわゆる「データ資産」だ。債権者の中にはシュツットガルトに拠点を置く金融系企業もある。個人情報との兼ね合いもあり、弁済方法には目を凝らしておく必要がある。
<この原稿は20年7月15日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>