第961回 落雷事故防止へ“早過ぎる”決断を

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 公開された映像を見て背筋が凍りついた。CGでも、これほど衝撃的な映像はつくれないだろう。

 

 7月初旬、ロシア・モスクワ郊外のとあるサッカー場。3部リーグのクラブに所属する16歳のGKが、練習中にボールを蹴ろうとした瞬間、雷に打たれ、崩れ落ちた。事故現場には黒煙が立ち上り、衝撃の凄まじさを物語っていた。

 

 CNNは「救急車が8分で到着」し、早めに「応急措置を受けたおかげで助かった」との関係者の証言を紹介していた。あと数分、救助が遅れていたら最悪の事態を招いていたかもしれない。

 

 落雷によるグラウンド内の事故は、日本でも数多く報告されている。1986年には広島県福山市内で中学生のサッカー部員、91年には埼玉県飯能市内の高校でソフトボールの授業中に一般生徒、2014年には愛知県内で野球部員が練習試合中に、それぞれ命を落としている。

 

 訴訟に発展したケースも少なくない。代表的なのは96年、土佐高1年生(当時)だったサッカー部員が、大阪府高槻市内で落雷事故に遭い、両眼失明、言語障害などの重度後遺性障害を負った、いわゆる“土佐高校事件”。地裁、高裁ともに「落雷は予見不可能」として原告の訴えを退けたが、最高裁は「落雷は予見可能、引率教諭は安全注意義務を怠った」として高裁に差し戻した。その結果、学校と高槻市体育協会に約3億円の損害賠償金の支払いを命じる判決が下った。

 

 この判決は多くのスポーツ指導者や体育教師に衝撃を与えた。逆に言えば、当時はそれだけ落雷事故防止に対する関心が薄く、対策も杜撰だったということだ。とはいえ、落雷のメカニズムは、21世紀になった今も未解明の部分が多い。そこで選手や生徒を守るため、体育協会や教育委員会、競技団体は独自の「落雷事故対策マニュアル」を作成している。

 

 たとえばJリーグ。予兆現象の項には<モクモクと発達した一群の積乱雲(入道雲)の発生><AMラジオにガリガリという雑音が入る>といった具体的な事例が紹介されている。埼玉県体協の手引きは、もっと直截的だ。<かすかにでもゴロッ(雷鳴)またはピカッ(雷光)を認識したときには、スポーツをただちに中断してください>。ストップが遅過ぎることはあっても、早過ぎることはない――。それが落雷対策の要諦である。

 

<この原稿は20年7月29日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

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