二宮清純: 新型コロナウイルスの影響で、スポーツ界も大打撃を受けています。サッカー日本代表は約10カ月も活動ができず、東京オリンピック・パラリンピックは1年延期となりました。Jリーグは中断を余儀なくされるなど日程面に大きな支障をきたしました。コロナをどう乗り切り、ピンチをチャンスに結び付けるか。元サッカー日本代表の岩本輝雄さんと名良橋晃さんに話を聞きます。
岩本輝雄 名良橋晃: よろしくお願いします。

 

二宮: 早速本題に入りましょう。現在、日本代表はオランダ遠征の最中で、9日にカメルーン代表、13日にはコートジボワール代表と親善試合を予定しています。新型コロナウイルスの影響でメンバーはヨーロッパ組だけで構成されました。
岩本: 選手個々のコンディションさえ良ければ、問題ないと思います。コンビネーションはある程度、構築されていますから。

 

名良橋: 身体能力が高い国との対戦ですが、コロナ禍によるぶっつけ本番に近いのは対戦相手も同じです。条件はイーブンと考えていいと思いますよ。
岩本: 確かに身体能力が高い対戦相手です。とは言っても、ヨーロッパ組の選手たちは日ごろからフィジカルに長けた選手たちと対戦していますから、何も心配する必要はないと思います。

 

二宮: ここまでの森保一監督のサッカーをどう評価していますか?
名良橋:攻撃に関しては選手の特徴をリスペクトし、自主性を重視したチーム作りをしているように見えますね。

 

岩本: 最後は選手が判断する、という感じですね。
名良橋: 守備に関しては、かつてサンフレッチェ広島を率いていた時と同じですね。「球際で絶対負けるな」ということを強く求めている。

 

 久保建英の魅力

 

<ゲスト>岩本輝雄(いわもと・てるお)
1972年5月2日、神奈川出身。91年JSLフジタ工業(現・湘南ベルマーレ)に入団。94年3月、Jリーグデビューし、同年5月代表戦に初出場。同年10月には日本代表の10番を背負った。98年以降、京都パープルサンガ(現京都サンガ)、川崎フロンターレ、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)、ベガルタ仙台、名古屋グランパス、オークランドシティを渡り歩き、06年12月に現役引退。Jリーグ、オークランドシティ時代通算240試合出場、42得点。A代表9試合出場、2得点。

二宮: 注目の久保建英選手についてはいかがでしょう。
岩本: 激しい守備のスペインリーグでも、久保はボールを取られない。例えるならば、Jリーグの守備は慎重に“待つ、見る”と言った感じですが、スペインリーグの守備は激しく体ごと“潰しにくる”感じでしょうか。それを久保はひらりとかわすのがうまい。ボールを取られないのは、大きく評価できる点だと思います。

 

名良橋: 相手DFが足もと目掛けて飛び込んできてくれた方が、久保にとってはやりやすいはず。ひとつかわせば、ビッグチャンスになりますから。
岩本: 彼は年々、フィジカルも向上しているし、テクニックは元々、高い。要領もわかっているから、相手が積極的にプレスをかけてくれた方がやりやすいのかもしれないですね。

 

二宮: 昨年はマジョルカで奮闘しましたが、惜しくもクラブは2部に降格。今季は上位進出を狙えるビジャレアルに移籍しました。
名良橋: 周囲の選手の質が高いので、より一層プレーがしやすいと思います。

 

岩本: ただ、周りのレベルが高いと出場機会を得られるかどうか。久保と同じ左利きでスペイン代表FWのジェラール・モレノがいますからね。この選手と久保がポジション的に被る気がするんです。
二宮: ジェラール・モレノは昨シーズン、リーグ戦35試合で18得点を記録した選手ですね。彼はFWで久保は中盤の選手でしょう?

 

岩本: ジェラール・モレノはFWですが、下がってフリーでボールを受けたり少しトップ下のような動きもするんですよ。彼はかなりレベルが高い選手ですね。さらに、サイドハーフのナイジェリア代表MFサムエル・チュクウェゼも久保のライバル。チュクウェゼのスピードはビジャレアルの武器だから……。
名良橋: 今季加入したMFダニエル・パレホというボランチが今のビジャレアルの“ドン”のような存在です。この選手から信頼されれば、ボールが回ってくると思います。

 

<ゲスト>名良橋晃(ならはし・あきら)
1971年11月26日、千葉県出身。90年JSLフジタ工業(現・湘南ベルマーレ)に入団。94年3月、Jリーグデビューし、同年9月代表戦に初出場。97年、鹿島アントラーズに移籍。98年フランスW杯に選出され、全3試合に出場した。07年、湘南に復帰。翌年2月に現役引退。Jリーグ通算310試合出場、23得点。A代表38試合出場。

二宮: ボールさえ回ってくればテクニックが高い久保ならチャンスは作れる、と。
名良橋: 実際、短い出場時間でもチャンスメイクをしたり、惜しいシュートを放っていますからね。

岩本: 一度得点を決め出したら、トントントンと結果を残しそうな雰囲気はありますよね。ペナルティーエリアの中でも外でも仕事ができるのは魅力です。彼は19歳、まだまだこれから。

 

二宮: ちなみにお二人が19歳の頃は?

岩本: 当時はサイドバックでしたが、前線に上がりまくっていました! 「守備はしないけど、攻撃で一発かませばいいでしょ!」と思っていた(笑)。

名良橋: 僕もサイドバックとしてガンガンオーバーラップを仕掛けていました。

岩本: 久保は19歳であれだけ活躍できるのだから、レベルが違いますよ。今後が楽しみな選手です。

 

 日本にとっては“来年”がチャンス

 

二宮: さて、新型コロナウイルスの影響で1年延期になった東京オリンピックについてはいかがでしょうか。森保監督がA代表との兼任で指揮を執っています。
名良橋: 過去にはフィリップ・トルシエ監督がユース代表、オリンピック代表とA代表を兼任して、結果を残したケースがありますよね。

 

二宮: 当時は1999年ワールドユース・ナイジェリア大会で準優勝、2000年シドニーオリンピックではメキシコオリンピック以来32年ぶりの決勝トーナメント進出、2002年日韓W杯では初のベスト16進出と結果を残しました。ただ、森保監督の場合、オリンピック世代とA代表の日程がかなり重なってしまっている。
岩本: 森保監督は下の世代から自分が育てて、A代表に送り込みたいというイメージはあるんでしょうけども……。特に去年は忙し過ぎました。大変といえば大変ですよね。

 

<聞き手>二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年2月25日、愛媛県出身。スポーツジャーナリスト。スポーツ情報サイト「スポーツコミュケーションズ」主宰。

二宮: 2022年カタールW杯に向けて世代交代を進めたいという点では森保監督とサッカー協会も思惑は一致しています。
名良橋: 先に開催される自国開催のオリンピックである程度結果を出さないと、厳しいと思いますね。

 

二宮: 自国開催のオリンピックで結果を出せなかったら、A代表監督の座も危ぶまれる。
岩本: 久保も含め、ヨーロッパ組のコンディションが良く森保監督の理想通りにオーバーエイジ選手(24歳以上の選手)が招集できれば、いい成績が期待できそう。来年に開催できれば、日本が有利だと思うんです。

 

二宮: といいますと?
岩本: このコロナ禍の影響を考えると、他国は選手の招集が難しいので……。

 

名良橋: それはあり得そうですね。どれだけ他の国が“本気モード”のメンバーを招集できるかは、この状況だと不確定ですね。
岩本: だからこそ、来年にオリンピックが開催できれば日本にとってはチャンスなのではと考えています。銅メダル以上は狙えるんじゃないですか。

 

二宮: ありがとうございます。後編では、主にコロナ禍におけるJリーグについてお聞きします。
岩本 名良橋: よろしくお願いします!

 

(後編につづく)

 

(構成・写真/大木雄貴)


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