二宮清純: 岩本輝雄さんと名良橋晃さんをお迎えし、前編では主に日本代表のことや東京五輪について語っていただきました。後編ではJリーグについてお伺いします。よろしくお願いします。
岩本輝雄 名良橋晃: よろしくお願いします。

 

二宮: 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、J1、J2は約4カ月の中断、J3は開幕が大幅に後ろ倒しになりました。現在は週に2試合(基本、水曜日と土曜日もしくは日曜日)の過密日程でリーグ戦が行われています。
名良橋: 外出が制限されているようなので、選手たちはうまくリフレッシュできているのかな? と。いかにメンタルコンディションをフレッシュに保てるかが、大事になってきます。

 

二宮: 岩本さんは?
岩本: コロナ禍におけるリーグ戦は、みんな初めての経験です。中2日、もしくは中3日で試合がある。「フィジカルコンディション的には合わせやすい」という選手もいると思いますよ。

 

<ゲスト>岩本輝雄(いわもと・てるお) 1972年5月2日、神奈川出身。91年JSLフジタ工業(現・湘南ベルマーレ)に入団。94年3月、Jリーグデビューし、同年5月代表戦に初出場。同年10月には日本代表の10番を背負った。98年以降、京都パープルサンガ(現京都サンガ)、川崎フロンターレ、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)、ベガルタ仙台、名古屋グランパス、オークランドシティを渡り歩き、06年12月に現役引退。Jリーグ、オークランドシティ時代通算240試合出場、42得点。A代表9試合出場、2得点。

二宮: と、いいますと?
岩本: 例えば、週1回の土曜日開催だとします。試合が終わって月曜日からフィジカルトレーニングで肉体を追い込み、1週間のメニューを消化しないといけない。僕が現役の時は試合、試合、試合……と立て続けにゲームがあった方が良かったなぁ。

 

二宮: 現役時代、多くて週に何試合消化していました?
岩本: 今と同じ、2試合(基本的に水曜日、土曜日開催)です。僕たちの時代は延長戦でも決着がつかなければPK戦までやっていた。あれは大変でした(笑)。

 

二宮: お二人はベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)で一緒にプレーしていました。2試合開催の週のスケジュールは?
名良橋: 試合以外は体のリカバリーがメインでした。当時のベルマーレは土曜日が試合だと、日曜日が休み。月曜日、火曜日は軽めの調整で水曜日が試合。木曜日は軽めのランニングで切り上げ、金曜日も軽めの調整、といった具合でした。

 

岩本: 個人的に調子が良かったり、クラブが勝っている時は連戦の方が嬉しかった。
名良橋: 僕も試合が続いた方が、体は動いていたな。当時は僕もテルも20代前半と若かった。1994年のサントリーシリーズ(前期)で負け込んでしまった時でさえ僕は疲れを全く感じなかった(笑)。

 

二宮: 94年サントリーシリーズのベルマーレは7勝15敗で12位中11位でした。後期のニコスシリーズで16勝6敗の2位と見事、盛り返しました。
岩本: そうでしたね。その年、ベルマーレはJリーグ初参戦だったので「よーし! やってやろう!」としか考えていなかった(笑)。

 

名良橋: オレたち、疲労よりモチベーションが勝っていたよね?
岩本: うん。精神的な問題も大きいかな。

 

二宮: 当時のベルマーレは両サイドのお二人による果敢なオーバーラップが持ち味のイケイケサッカー。躍動感があり、私も存分に楽しませてもらいました。

 

「ボールは汗をかかない」

 

二宮: そうそう、最近はチーム走行距離やスプリント(ダッシュ)回数といった数値が引き合いにだされます。
岩本: 僕は意味のない数字だと思っています。「走った」のではなく、「走らされた」結果なのでは、と……。

 

<ゲスト>名良橋晃(ならはし・あきら) 1971年11月26日、千葉県出身。90年JSLフジタ工業(現・湘南ベルマーレ)に入団。94年3月、Jリーグデビューし、同年9月代表戦に初出場。97年、鹿島アントラーズに移籍。98年フランスW杯に選出され、全3試合に出場した。07年、湘南に復帰。翌年2月に現役引退。Jリーグ通算310試合出場、23得点。A代表38試合出場。

名良橋: その数字をどうとらえるかだと思うんですよね。
二宮: 例えばですが、20勝2分け1敗、勝ち点62(10月14日時点)で首位を走る川崎フロンターレの1試合当たりのチーム走行距離は約110キロ。これは18クラブ中、最下位です。

 

岩本: 川崎Fがボールを動かし、相手を走らせている証拠でしょう。さらに、最終ラインから最前線の選手が大体30メートル以内に収まっています。選手間の距離が非常に近く、陣形がコンパクトですよね。
名良橋: 相手にボールを奪われても、すぐさまプレスをかけられる。だから自然と走行距離は短くなる。

 

岩本: それに加え、川崎Fの選手たちはボールを「止めて、蹴る」の基本技術が非常に高い。人間が30メートルを走るより、“ボールを走らせる”方が速いですしね。
名良橋: “ボールは汗をかかない”という言葉を体現しているのが川崎Fです。

 

二宮: 今、一番良いサッカーをしているのが川崎Fということでしょうか。
岩本: 横浜FCも素晴らしいサッカーを展開しています。昨季、下平隆宏監督がJ2で14位と低迷していたクラブを立て直し、29戦19勝7分け3敗の成績でクラブをJ1に昇格させました。J1の舞台でも後ろからしっかりパスをつなぐサッカーを披露しています。

 

名良橋: 横浜FCはテルのイチオシだよね。僕も横浜FCのサッカーは子供たちや指導者にも見て欲しいと思っています。下平監督のチームマネジメントは素晴らしい。
岩本: 連戦回避のため、うまく休ませながらやりくりしているよね。下平監督は強豪クラブに引き抜かれる可能性も出てくると思いますよ。監督としての評価は非常に高い。

 

二宮: その他に注目すべき指導者はいますか?
名良橋: 指導者のカラーや個性でいうとJ2は面白いかなと思います。

 

二宮: 例えば?
名良橋: 東京ヴェルディの永井秀樹監督と藤吉信次コーチの組み合わせも面白い。「これでもか」というくらいボール支配率にこだわったサッカーを展開しています。

 

二宮: センターフォワードを「フリーマン」、サイドハーフやウイングを「ワイドストライカー」、インサイドハーフを「フロントボランチ」と呼んだり、独特な表現も多い。
岩本: 先日、藤吉コーチに会った際、「最近、勝てないじゃん」と少し意地悪な質問をしてみたら「いやぁ、良いサッカーはしてるんだけどなぁ」と。実際、戦術はブレていないと思いますよ。

 

名良橋: 永井さんと藤吉さんの若い時を知っていますけど、二人とも指導者になるとは思わなかったよね?
岩本: 確かに(笑)。

 

 注目は川崎Fの三笘と山根

 

<聞き手>二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年2月25日、愛媛県出身。スポーツジャーナリスト。スポーツ情報サイト「スポーツコミュケーションズ」主宰。

二宮: Jリーグの注目選手はいかがですか?
岩本: 川崎Fの大卒ルーキー、MF三笘薫は面白いですね。

 

二宮: 彼はリーグ戦19試合10ゴール(10月14日時点)とブレイクしました。
名良橋: 彼のことはジュニアユース時代から知っていますが、武器のドリブルは当時からピカイチでした。11節から5試合連続で得点を決めたり、と自信も深めていると思いますよ。

 

二宮: 彼の特徴は?
岩本: 左サイドからカットインしてシュートを打ったり、チャンスを作ったりできることが最大の特徴です。カットインだけでなくタテにも速い。ショート、ロングカウンターの両方にも対応できる。今、Jリーグの左サイドハーフで一番輝いている選手ですね。

名良橋: 個の力で相手を抜き切れる。ドリブルは独特のリズムだから相手DFは足を出しづらいと思います。ペナルティーエリア内で中途半端に足を出せばPKを取られるリスクもある。厄介な選手ですよ。

 

二宮: DFのイチオシ選手は?

名良橋: 同じく川崎Fの右サイドバック・山根視来はA代表に入ってもおかしくないポテンシャルを秘めています。サイドバックながら、びっくりするようなボレーシュートを決めたりと、活躍が目立ちますね。

 

二宮: 今季、湘南ベルマーレから移籍してきた選手ですね。川崎Fは右サイドバックが人材難だったのですが、彼は見事にフィットしました。
岩本: 山根はJリーグのサイドバックの中でナンバーワンだと思う。一列前のMF家長昭博がタメをつくり、良いボールを供給してくれているのも山根にはプラスに働いています。仮に代表に入ったとして、国際試合でも実力を発揮できるか。ここが見物ですね。これは三笘にも同じことが言えるのかな、と……。

名良橋: 代表チームで自分の特徴を全面に出せる選手と、そうでない選手がいますから。今、名前を挙げた選手たちは周りのメンバーがかわっても所属クラブと同じようなパフォーマンスを発揮できれば、代表定着もあり得ますよ。

 

二宮: 最後にお伺いしたかったのは、今の日本サッカー界に天才はいると思いますか? 以前、森保監督は「天才はいない。天才と天才もどきは違うんです」と話していた。

岩本: 僕も天才はいないと思います。マスコミは天才という言葉を使いたがりますけど、努力なしにプロの舞台では活躍できないですから。

 

二宮: 名良橋さんは?
名良橋: 天才は、バカボンくらいじゃないですか?

 

二宮: あ、天才バカボン(笑)。うまくまとめていただきました。代表のこと、Jリーグのこと、熱いトークをありがとうございました。
岩本 名良橋: こちらこそ、ありがとうございました。

 

(おわり)

 

(構成・写真/大木雄貴)


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