「あれは反則ですよ」

 元サッカー日本代表MFの岩本輝雄は、こう言って舌を巻いた。

 

 

 柏レイソルのFWマイケル・オルンガのことだ。身長193センチ、体重85キロ。ケニア出身の初のJリーガーだ。

 

 サッカーの世界では、しばしば「反則」という言葉が使われる。もちろんルール違反を犯している、という意味ではない。規格外の身体能力やテクニックを有する選手に対する、ある種の尊敬語だ。

 

 9月27日現在、18試合で17得点。得点ランキングでは2位のFW小林悠(川崎フロンターレ)らに6点差をつけ、トップを独走している。

 

 言うまでもなくサッカーはロースコアのスポーツである。J1における1試合あたりの平均得点はおよそ1.5(9月27日時点)。オルンガはひとりで1点近く取っているわけだから、監督からすれば、これほどありがたい選手はいないだろう。

 

 では、オルンガの、どの部分が“反則”なのか。

 

 岩本の説明。

「まず高さがある。加えて足下のテクニックも素晴らしい。利き足の左はもちろん、右足でも蹴れる。駆け引きもうまい。スペースがあればドカーンと蹴ってくるし、相手が警戒して下がったら頭で狙ってくる。それに彼は味方をいかすこともできる。相手が嫌がるようなパスもだせます」

 

 オルンガは2018年8月、スペインリーグ1部のジローナから柏に移籍した。この年はリーグ戦10試合で3ゴール。大きなインパクトを残すことができず、クラブも2部に降格した。

 

 ブレークしたのは日本の水に馴れた2年目だ。J2で30試合に出場し、27ゴールの荒稼ぎぶりで、J1昇格の立役者となった。

 

 驚いたのは昨年11月24日、ホームで行われた最終節の京都サンガ戦のスコアだ。

 

 13対1。野球の試合ではたまに見かけるスコアだが、サッカーでは見たことがない。高校野球の予選なら、コールドゲームである。

 

 13得点のうち8得点をオルンガが決めた。前半3ゴール、後半5ゴール。中山雅史(ジュビロ磐田)が持っていた5得点というJリーグ(J1、J2、J3)個人1試合最多得点記録を大幅に更新した。

 

 J1ではどうか、という声もあったが先述したように“反則の男”にカテゴリーの壁は存在しなかった。

 

 オルンガの活躍もあり、目下、柏は9勝3分け7敗、勝ち点30の8位。昨季は2部で戦っていたことを考えれば、悪くはない順位だろう。

 

 気になるのはオルンガの去就だ。一部報道によると、スペインリーグ2部のエスパニョール、フランスリーグ1部のRCランス、さらにはトルコリーグ1部のベシクタシュも、この26歳に興味を示しているという。

 

 それについて、柏のネルシーニョ監督は「(現時点で移籍の)可能性は全くない」と否定する一方で、「今シーズンの活躍次第では、そういった可能性も現実味を帯びてくる」と含みを残した。

 

 個人的にはもう少しJリーグで“反則ぶり”を見ていたい。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2020年10月18日号に掲載されたものです>

 


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