「パーキンソン病に近いような状況」

 1980年代前半に活躍した初代タイガーマスク・佐山サトルの病状を、リアルジャパンプロレスの新間寿会長が説明したのは今年2月のことだ。

 

 

 パーキンソン病とは<脳の黒質という場所の変性によって、筋肉の動きがうまく調節できなくなる病気>(大日本住友製薬健康情報サイト)で<多くは手足がふるえたり(振戦)、筋肉の動きがこわばったり(固縮)、動きがにぶくなったり(無動)、また押されたときや歩行時に倒れやすい(姿勢反応障害)といった症状>(同前)が見られるという。

 

 有名なところでは、元ボクシング世界ヘビー級王者のモハメド・アリがこの難病に侵され、74歳で世を去った。発症年齢は50歳以上が多いと言われている。佐山は現在、62歳だ。

 

 劇画「タイガーマスク」の原作者はスポコン漫画の巨匠・梶原一騎である。68年から71年にかけて、いくつかの漫画雑誌で連載された。

 

 主人公の伊達直人は孤児院「ちびっこハウス」の出身で、デビュー時は悪役の覆面レスラーだったが、孤児院の後輩たちを落胆させないため、途中で正統派に転向。ファイトマネーの多くを孤児院に寄付する慈善活動家でもあった。

 

 颯爽と入場したタイガーマスクは、マントを翻してトップロープに駆け上がり、右手を高々と突き上げ、ファンの歓声に応える――。劇画ではお馴染みのシーンだが、これができるレスラーでなければ、タイガーマスクは務まらない。

 

 仕掛け人は新日本プロレス営業本部長の新間だった。梶原から企画を持ちかけられ、抜群の運動神経を誇る佐山に白羽の矢を立てたのだ。

 

 しかし、イギリスのマットで活躍中の佐山には迷惑な話だった。

「自分で言うのも何ですが、僕はイギリスで人気があり、試合の切符は全てソールドアウトの状態。タイトルマッチも予定されており、とても帰る気にはなれなかった」

 

 なかなか首をタテに振らない佐山に、新間は“殺し文句”を向けた。

「アントニオ猪木の顔を潰す気か?」

 

 帰国した佐山に待っていたのは、オモチャのようなマスクだった。

「マスクといってもシーツにマジックで図柄を書いたようなもの。目の切り抜き部分が小さくて視界が狭い上に口の切り抜き部分も、また小さい。呼吸をするのも大変でした」

 

 それでも「爆弾小僧」の異名をとるダイナマイト・キッドとの一戦は名勝負となった。アクロバティックな空中殺法、多彩なキックは子供たちを夢中にさせるに十分だった。以後、佐山は2年半にわたって劇画のヒーローを演じ続けた。

 

 聞くところによると、現在、佐山はリングへの復帰を目標に懸命にリハビリに励んでいるという。

 

「僕はタイガーマスクという過去を、責任を持って背負っていかなければならないんです」

 最後に会った際、佐山はこう語っていた。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2020年11月1日号に掲載されたものです>

 


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