巨人・原辰徳監督が“神様超え”を果たした。

 

 

 さる9月11日、巨人は東京ヤクルトに2対1で勝利、指揮を執る原はV9巨人を率いた川上哲治の通算1066勝を抜いて1067勝に達し、監督通算成績としては球団単独1位に躍り出た。

 

 原と川上には共通点がある。実力主義と競争主義の徹底である。

 

 時に非情と思える采配もあるが、裏を返せば、それだけ勝負に対して純粋だということだろう。

 

 川上が“生涯の師”と仰いだ正力松太郎は巨人を創設するにあたり、三つの誓いを立てた。

 

 ①巨人軍は強くあれ

 ②巨人軍は紳士であれ

 ③巨人軍は将来、米大リーグに追い付き、追い越さなければならない

 

 その正力に川上は<いつも、「勝負に私情をはさんではいけない。その代わり選手はかわいがってやれ」「高い金でとった選手でも、よくなければ、すぐやめさせてしまえ」ということを言われていた>(『私の履歴書――プロ野球伝説の名将』日本経済新聞出版社)という。

 

 また川上は以前、私にこう語った。

 

<巨人の監督やってると、いろんな辛い目に会いますよ。自分のことだけならともかく、中には家族のことをあれこれ言う人間までいる。(中略)私心のない人間じゃないと、とてもじゃないけど、(巨人の監督は)つとまらんです>(『月刊プレイボーイ』1989年7月号)

 

 原采配を巡っても、ネット裏からの批判がかまびすしい。8月6日、甲子園での阪神戦で、0対11の8回裏、内野手の増田大輝を「敗戦処理」としてマウンドに送った際には、OBから猛バッシングを受けた。

 

<これはやっちゃいけない。巨人軍はそんなチームじゃない。(中略)増田がマウンドに立った瞬間、俺はテレビを消した>(堀内恒夫のブログ2020年8月6日更新)

 

 原も黙ってはいない。べらんめえ口調で反駁した。

 

「ジャイアンツの野球ではやってはいけねぇんだとか、そんな小さなことじゃないんだよ。俺たちの役割は……」

 

 コロナ禍により、スケジュールがタイトな今季は、いわば“有事”である。有事には有事の戦い方がある、と指揮官は言いたかったに違いない。

 

 江戸城無血開城に尽力した勝海舟に次の名言がある。

<後世の歴史が狂と言おうが賊と言おうが、そんなこと構うものか。処世の秘訣は誠の一字>

 

 今では名将のひとりに数えられる原もそんな心境か。

 

<この原稿は2020年10月16日『週刊ゴラク』に掲載されたものです>

 


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