9月14日に『沖縄空手への旅――琉球発祥の伝統武術』が発売されました。WEB第三文明で連載されたフリージャーナリスト柳原滋雄氏著の「沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流」を単行本化したものです。本書で沖縄伝統空手の歴史と現状を、現地取材を敢行した著者が詳らかにしていきます。世界に1億人を超える愛好家がいると言われる「カラテ」の源流に迫る一冊となっています。

 

 柳原滋雄メッセージ

 

 本書は、筆者が空手の源流を追い求めた旅(取材)の記録である。ただその姿は、歴史の記録として明確に浮かび上がってくるようなものでもなく、現在の姿から類推するしかない性質のものだった。詳しくは本文に委ねたいが、沖縄の空手を取材することで、空手とは何かということをまざまざと考えさせられるきっかけとなった。

 

 本書を手にした読者が、スポーツ(競技)としての空手ではなく、本来の武術としての空手を見直す機会になれば幸いである。

 

(はじめに、より抜粋)

 

『沖縄空手への旅──琉球発祥の伝統武術』

 

Ⅰ 沖縄の空手とは何か

 沖縄空手の本質

 空手の種類

 空手の淵源と流派

 沖縄固有の武術「ティー」は存在したのか

 空手の「源流」を示すさまざまな呼称

 首里手と日本武術との関係

 空手普及の功労者 糸洲安恒

 空手普及の功労者 船越義珍

 

Ⅱ 沖縄空手の流派

 沖縄独自の流派 上地流

 日本初の流派  剛柔流

 しょうりん流1 首里地域の伝統武術「首里手」

 しょうりん流2 知花朝信の開いた小林流

 しょうりん流3 喜屋武朝徳の系譜 少林流・少林寺流  

 しょうりん流4 首里・泊手としての松林流

 競技分野の実績で抜きん出る劉衛流

 座波心道流 日本本土に保存された知花系空手

 神人武館 空手の源流・手(ティー)を求めて

 古武道 沖縄で育まれた武器術

 

Ⅲ 極真空手から沖縄空手に魅せられた人びと

 金城健一(琉誠館/館長)

 高久昌義(錬空武館/館長)

 石本誠(沖縄空手道松林流喜舎場塾英心會館/館長)

 岩﨑達也(剛毅會空手道/宗師)

 「沖縄詣で」重ねる空手家たち

 

Ⅳ 沖縄伝統空手のいま

 「空手の日」が制定されるまで

 戦後の沖縄空手界を支えた重鎮たち

 沖縄空手界を束ねる団体

 沖縄伝統空手道振興会 新垣邦男理事長インタビュー

 第一回沖縄空手国際大会レポート

 沖縄県「初代」空手振興課長インタビュー

 沖縄県空手振興課長インタビュー

 沖縄尚学の試み

 次世代を担う沖縄空手家群像

 

(第三文明社/定価:1600円+税/柳原滋雄著)

 

二宮清純 書評

 

 東京オリンピックの正式競技となったことで空手に興味を持ち始めた人は少なくないだろう。私の少年時代、空手家というと「悪」のイメージが定着していた。それはテレビドラマの「姿三四郎」に依るところが大きい。二枚目の竹脇無我が演じた主人公の柔道家・三四郎を狙う檜垣源三郎とかいう空手家は悪役風に描かれており、あれで空手はだいぶ損をしたように感じられる。

 しかし、著者が指摘するように、<もともと「カラテ発祥の地」沖縄にあったのは、自身の命を護るための護身術である>(同書)。では琉球発祥の伝統武術である空手は、どこから伝わり、どのような発展の経路をたどったのか。70人近い空手家、沖縄空手の関係者を対象にしたフィールドワークは、その手法自体が知的な旅であり、数々の証言から明らかにされる史実は目から鱗の連続だった。

 個人的には<神人武館 空手の源流・手(ティー)を求めて>という項目の内容に魅かれた。稽古は電気を消した真っ暗闇の中で行なわれ、声は一切、発しない。指導にあたる創始者は舌(ベロ)の位置まで懇切丁寧に指示するというから驚く。それは<相手に呼吸を読まれないための指摘>(同書)なのだ。伝統武術の始祖が時代を経ても、沖縄にはまだ温存されているのである。そうした、いわば沖縄空手の古層を照らす試みは、同時に私たちの視線を、素通りされてきた沖縄の近世史に向けさせるものでもある。