愛媛FCレディースがクラブ史上、初めて挑んだ大舞台、日本女子サッカー最高峰のなでしこリーグ1部。11月21日(土)に最終節を迎え、全18試合が終了した。今回は印象に残ったホームゲームの模様をお伝えしたい。

 

 9月13日(日)に行われた(2020プレナスなでしこリーグ1部)第10節では、ホーム(愛媛県総合運動公園球技場)にて、ノジマステラ神奈川相模原と対戦。

 

 前節(第9節)まで4連敗中と厳しい状況の愛媛は、今節も立ち上がりから苦戦を強いられた。前半20分に相手のセットプレーから失点。更に後半18分にも失点し、2点のビハインド。それでも彼女たちは、下を向かず諦めてはいなかった。失点直後の後半19分、敵ペナルティーエリア内でMF山口千尋選手が相手DFからボールを奪いシュート! これはGKに阻まれるが、こぼれたボールをFW齋原みず稀選手がDFを背負いつつカバー。後方から走り込んだMF松本苑佳選手が、このボールを捕らえ右足を振り抜く。グラウンダーのシュートはGKが伸ばした手の先を擦り抜け見事、ゴール! チームメイトとハイタッチで喜びを分かち合う松本選手。スタンドのサポーターからは、今季初ゴールの松本選手に大きな拍手が送られていた。

 

 一進一退の攻防が続く中、試合は終了間際。『スコアは、このまま動かずか……』と誰しも思い始めていた、後半44分。敵陣内・ペナルティーアーク付近でボールをキープする齋原選手。詰め寄るDFをかわしつつ、敵陣右サイドのスペースに走り込むDF松永早姫選手へスルーパスを通す。ボールに追いついた松永選手は、ダイレクトでゴール前にセンタリングを供給。ゴールエリアに走り込むFW上野真実選手が豪快なダイビング・ヘッド。ボールはゴール右上に突き刺ささり、試合終了間際に愛媛が同点に追いついた。チームメイトと抱き合い、喜びを表現する上野選手! 素晴らしい連係からの同点ゴールに、スタンドからの拍手も鳴り止まない!

 

 その後、スコアは動かず2-2のまま、試合終了。勝利とはならなかったが、終了ギリギリで引き分けに持ち込み、リーグ戦の連敗を4で止めることができた。

 

 10月10日(土)第14節、ホーム(愛媛県総合運動公園球技場)にセレッソ大阪堺レディースを迎えた。

 

 前半28分、自陣ゴール前のルーズボールを押し込まれ失点。相手に先制を許した。それでも後半5分、敵陣左サイドのMF西川早弓選手が同サイドに走り込む松本選手にボールを送る。DFを牽制しつつ、ペナルティーエリア内に飛び込むFW阿久根真奈選手にパスを通す。阿久根選手はDFを引き付けながら、ワンタッチでペナルティーアークに陣取る上野選手にラストパスを供給する。次の瞬間、上野選手が鋭く右足を振り抜いた。ボールはゴール左隅に突き刺さった! 巧みなパス廻しからの同点ゴールだ!

 

 後半13分、相手に勝ち越されるが、勢いで勝る愛媛は、まったく慌てない。その1分後、敵陣内・右サイドに陣取る松永選手のアーリークロスからゴール前で混戦に。最後は阿久根選手が押し込み、再び同点に追いついた!

 

 まだまだ攻撃の手を緩めない愛媛。後半35分、愛媛のカウンター攻撃から山口選手が上野選手へとボールを繋ぐ。そのままドリブルで敵陣中央を駆け上がる上野選手。DFラインの背後を狙う齋原選手にスルーパスを通す。ペナルティーエリアでボールに追いついた齋原選手が、ワントラップを挟み、DFをかわしつつ右足を振り抜いた。ボールは、美しい弧を描きながらゴール右上隅に吸い込まれた。愛媛の逆転弾! 大きな拍手に包まれるスタンド! チームメイトから手荒な祝福を受ける齋原選手。愛媛の選手たちに笑顔が広がっていく。

 

 結局、この齋原選手の美しいループシュートが決勝点となり、最終スコア3-2で愛媛が鮮やかな逆転勝利を収めた。

 

 10試合ぶりの勝利ということもあり、試合後のサポーターたちによる歓喜の拍手は、いつもより熱く長く選手たちへと送られていた。

 

 10月18日(日)に行われた第15節では、ホーム(愛媛県総合運動公園球技場)にてアルビレックス新潟レディースと対戦。

 

 試合序盤、新潟の攻撃陣に押し込まれるシーンも見られたが、GK三田一紗代選手を中心に愛媛DF陣が踏ん張り、相手に得点は与えない。

 

 そんな中、愛媛FCレディースMIKAN(レディース育成組織)所属の高校3年生、MF河本紗英選手が前線で孤軍奮闘。持ち前の運動量をいかし積極的にボールをチェイス。相手DFに素早くプレッシャーをかけ、警戒心を煽り疲れさせ、相手攻撃の組み立てを鈍らせる。終盤に差し掛かると、この作戦が相手に対し、ボディブローのように効いてくる。

 

 後半38分、敵陣内・右サイドでの混戦からDF鎌田蘭選手が前線のスペースに向けてフィードボールを供給。相手DFとの競争になるが、途中出場の山口選手のスピードには誰も敵わない。ペナルティーアーク手前で、このボールに追いつく山口選手。勢いそのままに右足を振り抜き、ミドルシュートを放った。ボールは、前方にポジションを取っていたGKの頭上を越えて、クロスバーに当たるが、ゴール内側にバウンド。見事、ゴールネットを揺らした。スタンドから大きな拍手が沸き起こった。両手を天に突き上げ、控え選手の元に駆け寄り、喜びを分かち合う山口選手!

 

 結局、この1点を最後まで守り切り、最終スコア1-0で愛媛が勝利した。

 

 愛媛が、なでしこリーグ1部での初の連勝を記録した試合であった。

 

 2020シーズン、夢にまで見たなでしこリーグ1部の大舞台に立ち、奮闘してくれた愛媛FCレディース。

 

 最終戦績は3勝12敗3引き分け(勝ち点12)で残念ながら10チーム中、10位(最下位)という結果に終わった。

 

 日本における女子サッカー最高峰リーグの壁は想像以上に高くて分厚いものだった。それでも、ハイレベルなリーグ戦の中、日本代表クラスの選手たちと数多くマッチアップできたことは、愛媛の選手たちにとって勉強になることも多かったと思うし、価値のある経験だったのではないだろうか。戦いの中で、感じたり学んだりしたことを、今後のプレーや心身の鍛錬にも活かしてもらいたい。

 

 また今季は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による慌しい中、様々な制限が設けられ、選手たちやスタッフにとってもイレギュラーで、精神的にも体力的にも難しいシーズンだっただろう。スタジアムの中では最後まで愛媛らしい粘り強い戦いを貫いてくれたし、応援する人たちを感動させるような試合を魅せてくれたので、個人的には褒めてあげたいし、労ってあげたい。

 

 リーグ戦は終了したが、これから皇后杯(第42回 全日本女子サッカー選手権大会)での戦いも始まるので是非、その舞台でも愛媛らしい気持ちのこもったサッカーを皆に魅せてもらいたい。

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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