J2は新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕直後に中断を余儀なくされ、イレギュラーなシーズンとなった。全日程を消化したのは年の瀬が迫る昨年12月20日(日)だった。

 

 12月16日(水)に行われた愛媛FCのホーム最終戦(第41節)。試合後に「愛媛FC2020ホーム最終戦セレモニー」が行われた。

 

 セレモニー開始前、この日でJ2通算300試合出場の節目を迎えた渡邊一仁選手を祝福するイベントも行われ、会場からは拍手が送られていた。

 

 セレモニーは、愛媛FC・村上忠社長の挨拶で始まった。

「皆さん、コロナ禍の中、クラブを支えてくださり、本当にありがとうございました。何とかホームゲーム最終戦まで戦うことができました。皆さんのお陰です。

 残念ながら成績は辛い結果となりましたが、皆さんの温かい気持ちは、常に私たちクラブ全員が感じていたところです。

 

 4カ月の中断中、クラブを支えてくれた愛媛FCの社員にも、この場を借りて感謝を申し上げたい。また(過密日程の)厳しい今シーズンを、ボロボロになりながら戦い抜いた選手や監督、スタッフたちには、労いの言葉を掛けてあげてもらいたいです。

 皆さん、2020シーズンを応援いただきまして、誠にありがとうございました」

 

 続いてキャプテンの西田剛選手が挨拶を行った。

 

「平日の開催にも関わらず、しかも寒い中、スタジアムへ足を運んでいただき、ありがとうございました。スポンサーや行政の皆様、サポーターの皆様、ホームでボランティア活動をしてくださった皆様、1年間ありがとうございました。

 コロナ禍の中にも関わらず、ここまで沢山の方々が、ご尽力くださったお陰で、今日を迎えることが出来ていると思います。感謝を伝えさせていただきます。

 この感謝の気持ちを言葉だけではなく結果で、あるいはピッチ上での姿勢で示したかったのですが、今シーズンは結果を残せず申し訳ありませんでした。ただ立ち止まるわけにはいきません。この結果、この経験から学び、これから先、それぞれの立場で向かっていかなければならないと思います。

 今シーズンも本当にありがとうございました」

 

 後に行われる西岡大輝選手のスピーチのために、コメントを残した気遣いあるキャプテンのスピーチだった。

 

 2020年シーズン限りで愛媛FC監督を退任することになった川井健太監督はこう語った。

 

「今シーズン、皆様に心配、不安な気持ちにさせてしまい申し訳ありませんでした。このような結果に関しては、選手のせいではありません。スタッフの問題でもありません。これは私自身の問題です。そこは間違えず見ていただきたいと思います。

 何より、このコロナ禍の中、足を運んでいただいたファンやサポーターの方々、スポンサーの方々、行政の方々、ボランティアスタッフの方々には、本当に感謝しています。その感謝の気持ちをピッチで示すことができず、申し訳ありませんでした。

 ただ私は、今シーズン辛いと感じたことはありません。色んな不安の中、(シーズンが)始まりましたけれども、後ろにいる選手たちが、私の背中について来てくれたからです。

 私としては、ファンやサポーターのため、それが全てです。(期待に応えられず)申し訳なく思います。ただ、クラブは進んで行きますし、我々も、このような経験、このような思いをしてきましたので、うちの選手たちは色々な舞台で今後、力を発揮してくれると思います。選手たちを誇りに思っています。

 本当に2年半、ありがとうございました。また何処かで、お会いできることを楽しみにしています」

 

 チームを去る川井監督に向けて、ゴール裏スタンドに陣取るサポーターからは『いつか必ず 健太とやりたい』という大きなメッセージ幕が掲げられた。

 

 最後に西岡大輝選手の現役引退セレモニーが行われた。

 

 西岡選手の挨拶の前に、サポーターたちが事前に作成したメッセージ映像がスタジアムの大型ビジョンに映し出された。同時にチャントコールが場内スピーカーから流された。西岡選手は、その映像をしっかりと目に焼き付けた後、サポーターに向けて拍手を送ってくれた。

 

 そして、西岡選手はゆっくりと語り始めた。

「皆さん、こんばんは。今季、皆さんの期待に応えることができず申し訳ありません。負け試合の後、引退セレモニーをさせていただくのは、少しやり辛い思いがありましたが、今流していただいた、愛のある動画を見て、その思いが吹っ飛びました。ありがとうございます! プロ10年間、そして愛媛FCでの7年間の思いを伝えさせていただきます。

 皆さん、西岡大輝引退セレモニーにお越しいただき、本当にありがとうございます!」

 

 その後、時代劇に出てくる様な巻物を取り出し、それを広げて長い文章を読み進める西岡選手。彼らしいユーモア溢れるパフォーマンスである。

 

 内容は、引退を伝えた際のチームメイトの反応や監督の言動を取り上げ、観客の笑いを誘うものだった。所々で「そこに西岡大輝への愛があれば、何でも良いんです!」というパワーフレーズを差し込み、連呼していたのが面白く印象的であった。

 

「今後は指導者を目指したい」とも語っていた。その目標に向かい頑張って欲しい。

 

 全てのセレモニーが終了し、全選手が会場内を歩いて回り、ファンやサポーターに挨拶を行った。私たちが陣取るゴール裏スタンド前まで選手たちが近付くとチームメイトが西岡選手を担ぎ上げ、手荒な胴上げで労った。

 

 その後「(サポーターの皆に寄り添って)写真撮りたかったけど、(できないから)コロナのバカヤローです。また愛媛FCをヨロシクね! ありがとうー!」などと、ファンやサポーターに丁寧に言葉を掛けながら、西岡選手はスタジアムを後にした。最後の最後までキャラクターが濃く、愉快で楽しく皆から愛され、ピッチでは頼りになる選手だった。

 

『西岡大輝選手、愛媛FCでは怪我も経験して、大変だったことと思います。苦しい中でも、その表情は見せず、常に明るく振る舞い、チームやサポーターを楽しませ、盛り上げてくださいました。また、クラブの行く末を案じ、選手たちによるチラシ配り活動の企画をご提案いただき、私たちと共に、その活動を実行してくださいました。その節は、誠にありがとうございました。そして10年間のプロ選手生活、本当にお疲れ様でした!』

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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