今年、社会人にとって唯一の全国大会となった都市対抗野球が終了しました。東京都第3代表として出場したセガサミーは過去最高タイとなるベスト4の成績を残しました。チームを率いて1年目、初の決勝進出を果たせなかった悔しさはありますが、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

 

 一発勝負の怖さ

 まずは1回戦のトヨタ自動車戦。トヨタは昨年の準優勝チームで、先発は広島からドラフト1位指名された栗林良吏投手。下馬評は圧倒的にトヨタ優勢でしたが、北阪真規が2回に先制2ランを放ち、それを先発の草海光貴、2番手・三宮舜(明治安田生命)、3番手・陶久亮太が守りきってくれました。

 

 栗林投手とは初対戦で、広島のドラ1ですから、どんな投手かと生で見るのを楽しみにしていましたが、非常にまとまっている好投手でしたね。タイプとしては私が広島で打撃コーチを務めていた時代に、巨人に新人で入った上原浩治を思い出しましたよ。

 

 上原はストレートとフォーク(ツーシーム)が抜群で、打ち崩すには追い込まれる前のストレートを狙うしかない。フォークが来たら「ごめんなさい!」という感じでしたが、栗林投手もストレートとカーブがとても良いピッチャー。そのために好球必打が絶対。それを意識して打席に入った北阪が積極的に打ちにいき、結果を残してくれました。栗林投手には今後はカープの一員としてぜひ頑張ってもらいたいですね。

 

 昨年準Vチームのトヨタに勝った反響は大きく、法大OBなど知り合いから電話やメールがたくさんありました。ほとんどが「西田のところがトヨタに勝つとは思っていなかった」というものでしたけど(笑)。まあ、初戦の波乱というのは理由があります。どんな強豪チームでも大会の入り、一戦目というのは難しいんです。それは甲子園でも経験したことですし、都市対抗もそうでした。

 

 さらに今回はコロナ禍で選手の移動にも少なからず影響が出たんじゃないですかね。幸いセガサミーは東京で、舞台は東京ドームでしたからそうしたストレスとは無縁でした。いずれにしても様々な要素が加わり、さらに選手の頑張りもあり、初戦を突破できました。

 

 とはいえ初戦を勝っただけで、セガサミーが挑戦者の立場であることは変わりません。続く、三菱自動車倉敷オーシャンズとの試合は、3回に補強選手の大内信之介(JPアセット証券)、小野田俊介(東京ガス)のタイムリーなどで4点を先制。その後、2点は失いましたが、三宮、陶久が好投し、逃げ切りました。補強選手の活躍と、先発・草海が期待通りにしっかりとゲームをつくってくれましたね。

 

 8強入りして迎えた3回戦、相手はNTT西日本。ここは近畿第1代表と強豪です。初戦の相手のトヨタ(東海第1代表)もそうですが、こうした強いチームとやるときには、調子の良いバッターを見極め、要所要所で的確に使っていく必要があります。

 

 この試合では3回に1死一、三塁のチャンスで、5番・澤良木喬之に代打・平田巧を送りました。平田はルーキーながら大舞台に臆することなくタイムリーを放ち、きちんと仕事をしてくれました。

 

 新聞に「済美高校出身の澤良木、伊予のゴジラだったのに今はミニラ」と私のコメントが載りましたが、澤良木はトヨタ戦で4三振を喫するなど、状態が良くなかった。都市対抗は負ければ終わりのトーナメントなので、より状態の良い平田を使ったというわけです。そうした見極めが一発勝負には必要になりますが、何よりもそれに応えてくれた選手を褒めたいですね。

 

 余談ですが、NTT西日本の監督(大西周作)はPL学園の後輩です。ここは先輩に花を持たせてくれたんでしょう(笑)。

 

 準決勝の相手は南関東第1代表のホンダ。この試合、相手に1点先制されましたが、6回に小野田俊介、根岸晃太郎の連続ホームランで2対1と逆転。9回表、1死までこぎつけ、もう九分九厘、決勝進出というところまでいきましたが、この後、ファースト根岸のエラーで出塁を許し、その後、同点に追いつかれました。まあミスはミスですが、根岸を責めることはできません。

 

 同点に追いつかれても、裏の攻撃、そして延長に入ってもタイブレーク(1死満塁から選択打順)ですから、後攻めのこっちに有利だなと考えていたのですが……。最後は10回表、ホンダの佐藤竜彦選手に満塁ホームランが飛び出し、その裏も反撃ならず。決勝進出は果たせませんでした。

 

 実はホンダとは都市対抗前に開田成幸監督からの申し出があってオープン戦を2試合、行いました。このとき、開田監督から「タイブレークもやっておきますか」と言われ、そのときはふたつともウチが勝ったんです。まさかその借りを本戦で返されることになるとは……。

 

 それにしても佐藤選手のホームランはものすごい打球でしたね。中継のJ Sportsのデータによれば打球速度は180キロ。まるでヤンキースのジャンカルロ・スタントンのような一打でした。プロ野球でもめったに目にしたことのない角度、そして打球音。今回、コロナ禍ということで観客数は制限され、鳴り物応援も禁止となりました。都市対抗の応援というのはある種、風物詩のようなもので、私もセガサミーの監督になってから楽しみにしていたのですが、静かな中での野球というのもそれはそれで見ごたえがあったんじゃないでしょうか。

 

 佐藤選手の打球音もそうですし、選手やベンチの声などが聞こえるのも新鮮だったことでしょう。プレーのひとつひとつに起きる拍手などは、野球をよく知っている人たちが見てくれているんだなと感じる盛り上がりでした。来年はコロナも収束し、ワクチンもできて、ぜひ笑顔でスタンドに集まれる大会になるといいですね。選手もスタンドの応援があれば、より力をもらえると思うので、早いところ収まることを願っています。

 

 それにしても、選手たちを決勝に連れていけず悔しいですね。終わったことなので言っても仕方ありませんが、強豪チームを破って準決勝まで進んだ。こういうチャンスはなかなかありません。負けたのでベストとは言いたくありませんが、今大会のベストゲーム、個人的にはセガサミー対ホンダだと思っています。野球の面白さ、トーナメントの怖さなどがギュッと詰まった好ゲームでした。

 

 今回の都市対抗出場にあたっては明治安田生命の三宮投手、JPアセット証券の大内選手、東京ガスの小野田選手が補強選手としてチームに加わってくれました。チームにもよくフィットし、期待通りの働きを見せてくれた3選手には感謝の言葉もありません。来年はまた敵同士となりますが、お疲れ様でした。

 

 私自身、初めての都市対抗を振り返れば、負ければ終わりという一発勝負の怖さを改めて知り、この年になって、いろいろと勉強になりました。チームとして収穫もあり、課題もあった大会でした。来年はより厳しい戦いになるので選手一同、また気持ちも新たに戦いたいと思います。この状況で会社に野球をやらせてもらっていることに、我々も含めチーム一同、感謝し、またよい結果を報告できるように頑張ります。

 

 そして最後に、10月に行われたプロ野球のドラフト会議について。指名選手の中に「セガサミー・森井絃斗」の名前はありませんでした。ドラフト直後は落ち込んだ様子もありましたが、すぐに立ち直り、今はまた前を向いています。セガサミー野球部の今年のスローガンは「超戦」でした。森井を含め、全員がこのスローガンのように今の自分を「超え」、さらに大きく成長してもらいたいものです。

 

 今シーズンは大変な状況の中でしたが、皆様、精一杯の応援をありがとうございました。これからもセガサミー野球部への変わらない声援をよろしくお願いいたします。

 

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