総務省の人口動態に関する統計で、他地域からの転入が他地域への転出を下回る状況を「社会減」という。ここでクイズ。全国の市区町村で最も「社会減」の多かった都市はどこか(2019年1月1日時点)。答えは2663人の長崎市だ。

 

 実はこれ、ジャパネットたかたの創業者である高田明から先日、教わった。高田は長崎県平戸市の出身。帰郷後、実家のカメラ販売事業から身を起こし、通信販売事業に進出。顧客目線のわかりやすい商品紹介が受け、一代でジャパネットたかたを、日本を代表する通販会社に育て上げた。現在はホールディングス化し、長男が家督を継いでいる。

 

 縁とは不思議なもので、今から13年前、新幹線を待つ広島駅のホームで偶然知り合い、講演に呼ばれた。案内された近代的な佐世保のスタジオは、高田が築き上げた城そのものだった。普通の経営者なら、事業拡大を図るにあたり、福岡や東京への進出を目論む。ところが高田は地元に根を張り、雇用を増やし、地元に税金を納めた。これぞ地域密着型経営。Jリーグの理念と共通しますね、と水を向けると「私は誰よりも長崎が好きなんです」。肥前なまりの甲高い声で言った。

 

 過日、その高田を私が統括マネジャーを務める「中国5県プロスポーツネットワーク」のオンライン会議に講師として招いた。高田が経営危機に瀕していたV・ファーレン長崎の全株式を取得したのは3年前の5月。経営の第一線からは退いたが、自らに課した次なるミッションは地域創生。その目玉がホールディングスによる「長崎スタジアムシティプロジェクト」だ。

 

 このプロジェクトが異彩を放つのは、スタジアムやアリーナにとどまらず商業施設やオフィス、マンション、ホテルも併せ持つ点だ。夜景で有名な稲佐山からスタジアムまでをロープウェイで結ぶ計画も進んでいる。700億円の総事業費は全てホールディングスが負担する。

 

 高田は言う。「700億円って数字が新聞に出た。女房が“これ、なに?”って。あとは互いに顔を見合わせ、沈黙です。もちろん借金。でも、これは地元の皆さんへの恩返し。シュートがバーに当たれば皆で悔しがり、点が入ったら皆で喜ぶ。長崎にはサッカーの、そしてスポーツの力が必要なんです」

 

 V・ファーレンは目下、J2の3位。J1への道のりは厳しいが、残り3試合に望みを託す。

 

<この原稿は20年12月9日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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