ブリコラージュという言葉がある。もともとはフランスの文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースが使い始めた言葉だが、最近はビジネス分野など多方面へ広がりを見せている。

 

 

 要するに寄せ集めのもので何かをつくったり、その場をしのいだりすることだが、フランス語のブリコレル(bricoler=ごまかす)に由来する。

 

 ごまかす、とは人聞きが悪いが、ないものを嘆いても仕方がない。手元にあるものを、手をかえ品をかえしながら使い、それなりのものに仕上げていく。要するに寄木細工のようなものだ。

 

 プロレスラーに贈られる最高の賞であるプロレス大賞の最優秀選手賞を4回(1995年、99年、01年、08年)も受賞している武藤敬司は、全盛期「天才」の異名をほしいままにした。

 

 188センチ、110キと大柄ながら空中殺法もこなすなど、そのセンスと身体能力はずば抜けていた。なおかつ繰り出す技には華があり、立ち姿からはオーラが漂っていた。

 

 しかし、武藤の場合、皮肉にも恵まれたセンスと身体能力が禍を引き起こしてしまった。駆け上ったコーナーポストからバック転しながら相手を押し潰し、そのままフォールを奪うムーンサルトプレスのやり過ぎでヒザを痛めてしまったのだ。

 

 武藤の著書『生涯現役という生き方』(蝶野正洋との共著、KADOKAWA)によると、病名は慢性的な変形性膝関節症で、既に右ヒザは4回、左ヒザは1回手術を受けている。18年3月には両ヒザに人工関節を入れる手術を行い、「肢体不自由(下肢)7級」と診断されたという。

 

 本人は語る。

「ヒザは若い時から悪くて、もう随分前から医師に人工関節を入れろ、と言われていた。しかし、その手術を受けると引退しなければならないと思っていた。ところが、3年ぐらい前に“武藤さん、人工関節を入れても試合ができるよ”という医師に巡り合い、それを信じて手術を受けたんです。結果的にはそれが良かった。ヒザ自体の痛みは消え、状態も良くなった。今はそこを蹴られても大丈夫ですよ。だって機械ですから(笑)」

 

 直近のシングルマッチは11月22日、横浜武道館でのノアの大会。44歳の谷口周平と対戦し、自らが開発したシャイニング・ウィザード(低い姿勢から片ヒザ立ちになった相手のヒザを踏み台にして、もう片方の足で仕掛ける飛びヒザ蹴り)を連発し、フォール勝ちを収めた。

 

 この試合では、ドラゴン・スクリュー(相手の足を内側から巻き込むように抱え込み、スクリュー気味に回転してヒザにダメージを与える技)や足4の字固めといった往年の得意技も披露した。

 

 人工関節を入れた今、さすがにかつてのように華麗に宙を舞うことはできない。今できる技を、寄木細工のようにつなぎ合わせ、自ら言うところの「作品」に仕上げていく技術は、さすが「プロレスマスター」と呼ぶにふさわしい。57歳のリングでの一挙手一投足を見守りたい。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2020年12月27日号に掲載されたものです>

 


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