新型コロナウイルス感染拡大が、世界中で「第2波」を迎えている。米国では1日あたりの感染者数が、11月20日、ついに19万人を超えた。10月下旬からヨーロッパではフランス、ドイツなどが次々に春以来2度目のロックダウンを敢行した。

 

 

 そんな中、IOCのトーマス・バッハ会長が来日し、菅義偉首相、森喜朗東京五輪・パラリンピック組織委委員会会長、小池百合子都知事らと会談を重ねた。

 

 いくつかの会談に同席した遠藤利明東京五輪・パラリンピック組織委員会副会長によると、当初、バッハは10月末の来日を望んでいたらしい。

 

「ただし、こっちにも都合がある。首相の日程も調整しなければならない。コロナ対策調整会議もある。それに11月8日には体操の国際大会があった。その結果を整理してからの方がいいとなり、あの日程での来日となったんです」

 

 来日3日目の17日、バッハは東京五輪・パラリンピックのメイン会場である国立競技場や選手村を視察した。これに同行した遠藤によると、バッハは「準備がうまくいっている」とご満悦だったという。

 

「バッハさんはフェンシングの選手としてモントリオール五輪に出場(フルーレ団体で金メダル)している。その時の選手村は8人1部屋で、部屋もそんなにきれいじゃなかったらしい。それに比べ、ここは海が見えて景観が素晴らしい。ダイニングも安全性と清潔感が担保されている。国立競技場にいたっては、“誰もが走りたくなる”と絶賛していましたよ」

 

 第3次安倍晋三内閣で2015年6月から16年8月まで東京五輪・パラリンピック担当大臣を務めた遠藤は生粋のスポーツマンである。学生時代は柔道やラグビーに打ち込んだ。

 

 前回の東京五輪、遠藤は山形県上山市内に住む中学3年生だった。聖火ランナーのメンバーにも選ばれ、当日を待っていた。

 

 ところが、である。

「走る3日か4日前、突然、盲腸が痛み出し、入院。あれは悔しかったねェ」

 

 そして、続ける。

「森(喜朗)さんから“組織委員会を手伝ってくれ”と言われ、交換条件として“聖火を走らせてください”と頼んだら、“それはダメだ”と。調べると政治家は聖火ランナーにはなれないらしいね」

 

 IOCとの間ではタフな交渉が続く。来日に際し、バッハは日本側への“手土産”として東京大会にやってくる海外選手のワクチン接種を推奨し、そのための費用をIOCが負担すると明言したが、もしワクチンが間に合わなかった場合はどうなるのか。副作用についての懸念も残る。

 

 観客をどの程度入れるかについても、まだ正式には決まっていない。「無観客」にすれば感染リスクはかなり低くおさえられるが、それでは盛り上がりにかける。900億円とも言われるチケット収入にも影響が出る。では何割までなら安全性を担保できるのか。

「まずは安心、安全。状況を見極めながら丁寧にやっていきます」

 

 トンネルの先に光はあるのか。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2020年12月13日号に掲載されたものです>

 


◎バックナンバーはこちらから