3年ぶりの1部復帰を目指す伊予銀行女子ソフトボール部は4月のリーグ開幕に向けて、年末からトレーニングをスタートさせている。今月17日〜24日には新人選手4人も合流し、宮崎で合宿が行なわれた。約1週間、南国の地で汗を流した選手たち。果たしてどのような収穫が得られたのか。合宿を終えたばかりの大國香奈子監督に合宿で掴んだ手ごたえや注目する選手について訊いた。

 今春、入社が内定しているルーキーは4人。高卒の藤原未来、相原冴子、宇佐美彩の3選手と大卒の山本久美子選手だ。
「今年の新人選手はみんな明るくて積極的な子ばかり。練習も真面目に取り組んでくれている」と大國監督。年末の合宿に続いて参加した今回の合宿でも一人も脱落することなく、先輩と同じハードな練習メニューをこなした。

 なかでもキャッチャーの藤原選手には注目しており、今回の合宿では彼女がどれだけやってくれるのか、その見極めと育成が一つの課題となっていたという。それにはこんな理由があった。

 昨季まで主にスタメンマスクを被っていたのは重松文選手だ。しかし、重松選手はチームでも屈指の俊足の持ち主。加えて打撃もいいことから、大國監督はかねてから重松選手を外野手として起用したいと思っていた。だが、これまでなかなかスタメンを任せられるキャッチャーが育てられず、結局は重松選手がマスクを被るしかなかった。

 しかし、チーム事情を考えれば、今季はそうもいかないようだ。昨季オフ、主力のセンター・門屋美香選手が引退。これを受けてキャプテンの川野真代選手がセンターに入ったため、両翼がポッカリと空いた。残る外野手は2年目の仙波優菜選手と新人のみ。
「両翼とも1、2年目の若手では、やはり不安。今季は重松を外野に置きたい」
 そんな思いを胸にキャッチャーを探していた大國監督の目に留まったのが岐阜県出身の藤原選手だったのである。

 彼女は大國監督がまさに理想としていた“自らグイグイと引っ張っていくタイプ”のキャッチャーだった。合宿中、大國監督はわざと6年目の高本ひとみ、坂田那己子の両投手と組ませた。ベテランを相手にどうリードするのかを見たかったのだ。

「もっと抑えて!」
 威勢のいい藤原選手の声が響きわたる。こうした彼女の想像以上の堂々ぶりに、大國監督の期待は膨らんだ。
「これまでにはいなかったタイプですね。高本や坂田にもバシバシ指示を出していましたから。正直、こちらが思っていた以上ですよ」

 藤原選手が見せた修正能力

 合宿中には1部に所属するシオノギ製薬と練習試合を行なった。1試合目、大國監督はわざと藤原選手に何も言わず、黙って送り出した。意気揚々と臨んだ藤原選手だったが、先発した坂田投手との息が合わず、結果は惨敗。高校と実業団とでは打者のスイングの速さも違えば、ストライクゾーンの広さも違う。それまで藤原選手がやってきた配球では実業団には通用しなかったのだ。

「自分で考えて、もう一度明日、自分の思うようにやってみなさい」
 試合後、大國監督が藤原選手に伝えたのはそれだけだった。まだ18歳の新人には厳しいようだが、これもまた期待しているが故の指導である。キャッチャーは試合中、自分で考え、ピッチャーをリードしなければならない。悪ければ、どう修正するかを決めるのも自分だ。そうした能力が藤原選手にあるかどうか。大國監督はそれを見極めたかったのである。

 翌日の2試合目、再び坂田投手とバッテリーを組んだ藤原選手の配球は、前日とは全く違っていた。高校では「ギリギリのボールは打つな。甘いボールを待て」という指導が主流だ。そのため、前日の藤原選手はストライクゾーンだけで勝負をし、相手に痛打を浴びる結果となった。

 しかし、実業団ではいかにボール球を打たせるかが勝負のカギを握る。そのため、ボール球をうまく使うような組み立てを考えなければならない。加えてキャッチャーは「ボール球をストライクに見せる」という技術も必要となる。藤原選手はそれをわずか1日で修正してきたのである。

「もちろん、技術的には荒削りな面もありますが、潜在能力は高いですね。これからが期待できます。それに、キャッチャーとして性格も申し分ない。ピッチャーがミスして連続ホームランを打たれても、次の打席では冷静に牽制でランナーを刺したり、攻撃では自身初のホームランを打ったり……。とにかく気持ちの切り替えが早い子ですよ。
 また、私がミスしたピッチャーを呼んで注意していると、すかさず藤原も来るんです。ピッチャーが何を言われているのかを聞いてるんですよ。若いのに、キャッチャーには何が必要かを心得ているんです」(大國監督)

 合宿では毎朝、毎晩、ご飯を3杯おかわりしていたという藤原選手。161センチと身長はさして高くないが、体はガッチリしている。心身ともにキャッチャーとしての素質は十分。今後の活躍が大いに期待される。

 新人が昇格のカギを握る

 この藤原選手以外の新人選手たちも元気がいい。そのうちの一人、“将来の4番候補”と期待されているのが外野手の相原選手だ。もともとピッチャー出身ということもあり、リストがやわらかい彼女は、飛距離なら実業団でも十分通用するほどのパワーヒッターだ。
「飛距離というのは、努力ではどうすることもできない、持って生まれたものなんです。それが彼女にはある。体さえしっかりできてくれば、いいバッターになると思いますよ」(大國監督)

 また、大國監督いわく「一番負けず嫌いで根性がある」のが宇佐美選手だ。ショートの宇佐美選手はグラブさばきが巧く、バッティングもミート力に長けている。しかし、まだまだ実業団のスピードにはついていけていないのが実情だ。合宿では副キャプテンの中田麻樹選手とともに特守を行なったが、スピード、スタミナともに中田選手との差が浮き彫りになった。だが、それでも宇佐美選手はやめようとはしなかった。
「もう体はボロボロで足は止まっているんです。それでも顔をグシャグシャにしながらも私に向かって“もう1本!”と言うんですからね。いやぁ、根性ありますよ」と大國監督。今後の成長が楽しみな選手だ。

 新人選手の中で唯一大卒の山本選手は、強豪の園田学園女子大学出身。昨年のインカレで優勝したチームのキャプテンでスピード、パワーともに申し分なく、期待の新人だ。課題はどれだけ早く実業団のボールに順応できるかだという。実は、実業団では黄色いボールが採用されているが、大学では国体と同じ白いボールが採用されている。白いボールは黄色いボールに比べて縫い目が低く、軽い。そのため、飛距離が出やすいのだ。バットで言えば、金属と木製くらい違うという。それさえクリアできれば、活躍は間違いないだろう。
 
「彼女たちはまだずっと一緒に練習できるわけではない。だから地元に帰す時には『練習してこなかったら、試合では使わないよ』と言ったのですが、年末年始もきちんと体を動かしてきたようですね。まだまだ体力は十分ではありませんが、今回の合宿でも期待していた以上にいい動きを見せてくれました」

 3月には、1部リーグ所属のチームが多く出場する「すだちカップ」(14〜16日)や「マドンナカップ」(17〜19日)などが控えている。いよいよ実戦モード突入だ。だが、大國監督はまずは結果を求めず、新人選手たちの育成に力を入れるつもりだ。

「すだちカップやマドンナカップの前半は、勝負にこだわらず、新人をどんどん起用していこうと思っています。早く実戦に慣れてもらうのが狙いですから、ミスしても我慢して使い続けます。そして、4月のトヨタカップからはリーグ戦開幕に向けて勝ちにいく試合をしていきたいと考えています」

 今季、1部昇格を果たすには藤原選手をはじめとした新人選手がカギを握ると指揮官は見ているようだ。果たして、彼女らは実業団のスピード、パワー、スタミナにどれだけ食らいついていけるのか――。
 大きな新戦力を得た伊予銀行女子ソフトボール部の活躍が注目される。


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